サンタクロースに願うのは_4 ページ4
「…犯人かどうかも分からない状況で、それが正しい行動なはず、...ないだろう」
当然だ。
そんな行動を見過ごせるはずがない。
しかし降谷は、
松田の言いたいことも少しだけは理解出来ると言わんばかりに、荒げていた声のトーンを少し落とした。
「たった1人の家族が危ない目に遭ったってだけで、十分だろうが。
あの男の目的は知らねぇけど、あいつの弟を狙ってたのは事実だ」
だから殺しても良いという話では決してないのだが、松田の言うことも最もで。
降谷たちは口を閉ざし、突如遭遇した不穏な事件に一斉に顔をしかめていたのだった。
松田とて、降谷が思っているような行動を促そうとしていたわけではないのだ。
ただ、言葉にしたとおり、
Aの考えを、感情を、行動を、止めようと思えなかっただけだった。
あの時、Aがあのナイフを男の喉に突き刺すとも、思えなかった。
なんの根拠もない考えだが、松田の中では確証があった。
それは、長くはない時間ではあるが、
桜庭Aという人物に触れた期間の中で、松田が感じた何かが積み重なって出来た”確証”だった。
降谷に言わせれば、
そんな何の根拠もない考えで万が一のことが起こっていたらどうするのだと問い詰められるのだろうが、
松田はやはり、あの時のAを無理に止めようとは思えなかったのだ。
「だとしても…、容疑者は取り調べと裁判で正しく裁くべきだろう。
万が一の状況になったら、…、もし、3年前の彼女の両親の事件に関わっていたとすればなおさら、
目的も分からないまま…、捜査は難航するかもしれないだろう」
しごく尤もな言葉をぶつける降谷だが、やはりその表情は複雑で。
似たような表情を並べながら、4人は重い足取りで寮に帰ってきたのだった。
──────
「”悔しい”…か」
昨日、Aの口から溢れた言葉を反芻し、
ガバッと上半身を起こした降谷。
あの男は、捜査一課の刑事が連行して行った。
今は取り調べが行われていることだろう。
病室に現れたのは、昨日、斉木の家に入って行った刑事たちで。
3年前のAの事件に何かしら関与しているのだろうとそう考えるも、
何か情報が得られるわけでもなく、
ざらりと胸の中を撫でられるような不快感を覚えた降谷。
当事者であるAが、
いかに歯痒く、悔しい気持ちを抱いているかが少し分かった気がして。
シワのよったシーツを眺めながら、
思い出していたのは、松田の苛立った顔だった。
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作者名:white12 | 作成日時:2022年11月2日 20時