姉弟ゲンカ_8 ページ30
「…あ、桜庭…!」
「大丈夫か?」
どこか力無い雰囲気を漂わせてゆっくりとした足取りで戻ってきたAに目を止めると、
病室の前に立ったままだった降谷と萩原が心配そうに駆け寄った。
「ん?諸伏はどうした?それに桜庭の弟は──」
その後ろから歩いてきた伊達が、2人を探すようにキョロと周囲に目を向けている。
『優也に付き添ってくれて…。私は、断られちゃったので』
伏せ目がちに困ったような表情を浮かべたA。
身長は平均的ではあるものの、
もともと細っそりした彼女の身体がさらに痩せたように見えて、
降谷は自然と膝を折り、
「そうか。ヒロなら大丈夫だろ」
と、同じ高さのその目を見つめた。
「諸伏は誰とでも仲良くなるからな。懐に入るのが上手いっつーか」
「おいおい萩原。その言い方はちっと違うんじゃねぇか?ま、…アイツも相当心配してんだろ」
わざとなのか、微妙な表現をした萩原が伊達にニヤリと笑みを返した。
『ありがとう、ございます。
…あの、先日も病室に来てくれたって優也から聞きました。
すみません。眠ってしまっていたみたいで』
「いや、俺たちが勝手に押しかけたようなもんだから。な?降谷ちゃん」
「あぁ。君が気にすることじゃない。あんな事件があったんだ。…心配だっただけだから」
『あの日は、…ありがとうございました。
すみません、色々と心配…、お騒がせしてしまって──』
とっさにあの男を追いかけ、拘束するために協力してくれたのは松田だけではなく降谷も同じ。
男にナイフを向けたのも、この男は知っている。
Aはそれ以上は何も言わず、降谷の目を一瞬見つめて伊達や萩原に視線を移し、そうして、小さく頭を下げた。
「…」
「..桜──」
複雑そうに口を閉ざす伊達、そして、彼女の顔を上げさせようとするように手を伸ばしかけた降谷の横で、すっと萩原が一歩踏み出した。
『え…?』
ふと薄暗くなった視界と、前髪あたりに触れるか触れないか程度に感じた温度に、顔を上げるA。
『ぁ…』
そうして、至近距離に萩原の姿を捉え、その口からか細い声が漏れた。
「陣平ちゃんの代わりに、な?」
ニッ、と引き上げられた萩原の口角。
反射的におでこに手をあてたAは脱力したように肩をストンと下ろし、
なぜだか目頭が少し熱くなるのを感じていた。
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作者名:white12 | 作成日時:2022年11月2日 20時