冷たい空気_6 ページ20
「…んで──」
『え?』
いまいち聞き取れなかった言葉に顔を上げると耳に入ってきたのは松田の小さな舌打ちで。
Aが戸惑いつつ首を傾げると、
「なんで、そんな風に笑ってんだよ」
責めるような視線で松田が口を開いた。
『え…』
“大丈夫です”
今し方、そう言ったAは、どこか穏やかな表情をしていて。笑っているわけではなくとも、そう見えてもおかしくない表情で。
松田は、反射的に、腹の底あたりがクツクツと沸騰するような、粘っこいものがうねるような、そんな感覚を覚えていた。
「何が、”大丈夫”、だ。大丈夫な訳ねぇだろうが。
アンタが笑えるようなことは1つもねぇはずだろうが」
『…』
「笑ってくれてりゃいいと思ってたけどよ。
そんな風に笑ってろとは、誰も、…思ってねぇよ」
苛立った様子の松田の言葉に口を閉ざし、コクリと唾を飲み込んだA。
「…なんで黙ってんだよ。
弟んことが心配なのは分かるけどよ、アイツら──、警察の奴らに言ったのかよ」
『…何を、ですか』
松田の苛立ちが移ったかのように、Aは眉を寄せて小さな声で反論した。
「あの男。…病室に入ってきた奴。
優也っていうアンタの弟と、両親を襲った奴じゃねぇのかよ」
ストレートに問われ、口をつぐむA。
それを口にした松田本人もまた、言葉を途切らせて唇を歪めた。
「もしかして、アンタがぶつかったっていう男にも…似てたんじゃねぇのかよ」
『…』
視線を下に逸らし、ギリと唇を噛んだAの様子を見て、松田はさらに眉をひそめた。
言葉にせずとも、YESの意であることは明らかだったからだ。
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作者名:white12 | 作成日時:2022年11月2日 20時