冷たい空気_5 ページ19
屋上のドアを開くと、キンと冷たい空気がAの吐息を白く染め上げた。
12月25日。
今日はクリスマスだ。
夜になれば気温は5度を下回る予報で、陽が傾き始めたばかりのこの時間でもかなり冷え込んでいた。
冬の空気とまだ少ししっとりしている髪の冷たさに、思わず肩を縮めたA。
「…ったく、上着くらい着て来いよ」
『え?』
Aに続いて屋上に足を踏み入れると、松田は彼女に自身が羽織っていた黒いコートを差し出した。
『あ、いえ、大丈夫です』
「アンタが風邪でもひいたら、弟が心配すんじゃねぇのかよ」
『それは...』
乱暴にグイっと改めて差し出され、Aは躊躇いながらそれを受け取った。
松田の顔を伺うように一瞥し、そっと肩に羽織ると、ふわりと苦い香りが鼻をくすぐった。
喫煙者なのだろうかと、
そう言えば前にもそんなことを思った気がするなと、Aは頭の隅でぼんやりと考えていた。
数秒ほど。
2人の間に沈黙が流れると、
『あの──』
「大丈夫か?」
同時に口を開いた2人。
『え…。あ、大丈夫…です。コート、ありがとうございます』
「そうじゃねぇよ」
寒くないかと聞かれているのだと思い、羽織ったコートをキュッと握ってAが答えると、松田のドスの効いた低音が響いた。
「そうじゃねぇ」
松田はもう一度、独り言のように口にして、
つい先ほど、彼女の弟である優也と同じようなやりとりを交わしたことを思い出した。
やはり姉弟とでも言うのか、大丈夫だと口にするその表情が似ている気がしていた。
少し不機嫌そうな複雑な松田の顔を見て、その視線が自身の頬に注がれていることに気づいたA。
全く気にしていなかったが、そこにはわずかな痛みが残っていた。
あの男に向けられたナイフの先端が掠めた傷だ。
そうして、
Aは、自分が言いたかったことも含めて、
『…大丈夫です。
この間は、…本当にありがとうございました』
と答えた。
「…」
『克服しようとしていたつもりでしたけど。
…やっぱり、あの窓から飛び降りるのは、私1人じゃ…無理でした』
小さく頭を下げたA。
しかし、松田はあからさまに苛立ったように大きく眉間にシワを寄せた。
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作者名:white12 | 作成日時:2022年11月2日 20時