不確かで確かなもの_4 ページ6
『この間も、…犯人のこと、聞いちゃったし。
本当は、…思い出して苦しんで欲しくはなかったんだけど…』
「それはこの前も、言っただろ。
そりゃ、あの日のこと考えたら、…苦しいし、…恐いし、
父さんと母さんのこと考えたら…。
でも、犯人が捕まるなら、…何でもないって」
『…うん』
もう空になった皿にフォークを置くと、
カチャ、と、か細く小さな金属音が耳にやけに響いて、
Aは、口の中に残るレモンの甘酸っぱさに感情がじわりと混じり合っていくような、
心が少し切り離されているような、そんなおかしな感覚を覚えていた。
そしてそれは、今初めて覚えた感覚という訳ではなくて。
“自分の感覚を信用することも時には必要な場合もある”
優也に小さく笑いかけながら、永倉の言葉を思い出していたA。
感覚という名の、不確かで確かなものは時にやっかいで。
私情や私怨が混じり合うことで、危険なものにもなりうる。
優也の顔を見つめて、
心から心配し、安堵し、穏やかな日々を願う感情と、
犯人を今すぐにでも捕まえて、”同じ目に遭わせてやりたい”と強く願う荒れる波は、
不確かに、確かに、Aの中に共存していて。
しかし、永倉教官の言葉は、
ざわめいて揺らいで握り潰されそうなAの中にある何かをわずかに晴らしてくれたような、Aはそんな風にも感じていた。
そして、
“勘ってやつも、大事なスキルの1つらしいぜ”
それは、
以前に松田から言われたことでもあったのだと、思い出したA。
「…姉ちゃん？」
『…』
「姉ちゃん？ど、どうかした？」
『え？あ…、ううん』
「…姉ちゃんこそ、俺のことはそんな風に気にしなくても良いからな」
心ここに有らずといった様子でしばし口を閉ざしていたAを心配し、優也が眉を寄せると、
Aは苦笑いをして、
『相変わらず生意気なんだから』
と、彼の頭をわしゃっと撫でた。
「…が、ガキ扱いするなよ」
『でもまだ子どもでしょ？』
「は？俺、18なんだろ…？」
3年間眠っていたとはいえ、年齢的にはそういうことだと反論する優也。
『今日はゆっくり眠ってね』
「…大丈夫だって。
っていうか、そもそもまだ寝る時間じゃないし...」
Aは柔らかく、心配そうに小さく笑い、
やはり子ども扱いされていると思ったのか、優也は小さく唇を尖らせていて。
楽しげで少し寂しげな姉弟の会話が続く中、警察病院の夜は更けていった。
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white12(プロフ) - さゆりさん» 嬉しいコメントをいただきありがとうございます。更新が滞りお待たせしてしまって申し訳ありません。また，体調についてもお気遣い本当にありがとうございます。更新頻度がまちまちで申し訳ない限りですが，引き続きお楽しみ頂けると幸いです。 (2022年8月31日 19時) (
レス) id: 5b5db755e5 (このIDを非表示/違反報告)
さゆり - 更新ありがとうございます！これからどうなっていくのかドキドキしています。体調が悪いとおっしゃっていたので、どうぞ無理はしないでお大事にしてください。続きを楽しみにしています！ (2022年8月30日 20時) (レス) id: 2b8084ecea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：white12
| 作成日時：2022年8月4日 18時
