声を聞くのは ページ23
「──あとは…、桜庭、そっちの書類は頼んだ」
『了解しました』
交番勤務の職務実習も1週間が過ぎた。
日々作業内容は異なるものの、おおよその事柄に少しずつ慣れ始めていたA。
しかし──
「ん?ここ、空欄のままだぞ?」
『え…』
「報告書の作成も重要な業務だ。しっかりな」
『は、はい!』
上司に提出した書類に不備があったことで、
Aは、慌てて頭を下げた。
集中力がどうにも継続しないことは自覚していて。
しかしそれが許されるはずもないことも理解していて。
デスクに戻り、思考を切り替えるようにして大きく左右に頭を振ったA。
頭の中には、先日見た光景がぐるぐると渦巻いて離れてくれそうになかった。
そうして。
「よぉ」
『え…』
今日は夜勤実習ではないため、
夕方になり、交番を後にしたAは、
交番の横の路地で壁に背中を預け、行き先を遮るかのように待ち伏せていた人物に足を留めた。
『あ、お疲れさま、です』
楽しげな時も、どこか仏頂面が混じるようなそんな傍若無人っぷりがデフォルトの松田は、
目を細めてAを見つめていて。
『あの、…何か?』
「いや?ちょうど俺も終わったとこで、アンタがこっから出てくるとこが見えたからたまたま寄っただけだ」
『…そうですか』
たまたまという割には、
壁にもたれていたような姿勢は少し違和感があって、訝しげに眉を寄せるA。
そうして、
バッタリ出会した先日とは違い、
松田はどこか有無を言わさないような雰囲気で、
「んじゃ、寮に帰るとこだよな?」
と、Aと並ぶようにして歩き始めた。
いつの間にか一緒に帰る流れになり、
とりあえず、
昼間はまだ少し暑いだとか、
今日の実習で少しミスしてしまったとか,
そんな会話をポツポツと交わしながら、
隣の松田を横目で気にしながら歩いていくAは、
駅近くの斉木の配属先の交番に近づいたあたりで、周囲を少し気にし始めた。
その様子になんとなく気づきつつも、
先日と同じく、Aと適当な会話をしながらそのまま寮まで戻ってきた松田。
『じゃあ...、お疲れ様です』
「…」
何も言わず、しかし何か言いたげな松田に、
立ち止まるA。
そのまま寮に戻ることも出来たはずだが、
何となく、それが出来なかった。
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white12(プロフ) - さゆりさん» 本作をお読み頂き,コメントまで頂きありがとうございます。作品を好きだと言って頂き,本当に嬉しいです。お騒がせしてしまい申し訳ありません。作品を楽しんで下さっている方が1人でもいらっしゃることに,感謝しかありません。引き続きお楽しみ頂ければ嬉しいです。 (2022年7月5日 12時) (レス) id: 35753a7d46 (このIDを非表示/違反報告)
さゆり(プロフ) - 続編おめでとうございます!更新をいつも楽しみにしています。何だか大変だったみたいですが...。色々な方もいると思いますが、とても好きな作品なので、これからも応援しています! (2022年7月4日 22時) (レス) id: 2b8084ecea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:white12 | 作成日時:2022年7月3日 18時