班長の貫禄_2 ページ15
“やーっと目があった。”
そんなことを口にしたのは数日前。
しばらく、視線が絡み合うことの無かったAだが、
あの日倉庫で話をしてから、
ここ最近は少しだけその壁が無くなってきたようにも思っていた萩原。
とはいえ、訓練では全く関係のないこと。
目が合うとか合わないとかそんなことを言っている場合ではない。
邪念は一蹴して、相手のわずかな動きも見逃さないよう、
萩原は意識を集中させて、Aの間合いに入ろうと小さく動き始めた。
──刹那。
「──ッ…」
『…』
すっとAが動いたと思ったら、その距離数十センチ。
萩原の目の前には彼女の腕が、道着の襟元を掴もうと迫っていて。
「──っ…と…」
とっさにそれをかわし、2歩ほど後ろに距離をとった萩原。
そして、
『…ッ…!』
片足で畳についた反動を利用して逆にAの間合いに入ろうと1歩踏み出し、
彼女の道着を掴んだ。
「よ…っ──」
そのまま、重心を低くし、彼女を背負おうとしたものの──
「…え──」
ぐらり。
自分の重心が揺らいだと思った時には、
既に視界には道場の天井が映り込んでいて。
腕を軽く引っ張り上げられる感覚と、
背に軽い衝撃を感じたと思った直後、
「1本!桜庭!!」
審判役で協力に来ている見知らぬ教官の声が響き渡った。
「…」
畳に背をつけたまま、
自分が倒れたことを把握し、
何が起こったのかをハイライトのように瞬時に思い出す萩原。
ぐらりと重心が揺れたと思った直後に、
片足が宙に浮き、後ろに引っ張られるような感覚を与えられた。
足をはらわれ、重心が一瞬ぐらついた隙をついて、
すかさず後ろ向きに畳に叩きつけられたのだと理解した。
倒れる瞬間、軽く腕を引っ張り上げられたのも、
腕に残る感覚が教えてくれていて。
とっさに受け身を取るのは各々身についていることなのだが、
それでも訓練では怪我につながるようなことも多い。
強い衝撃に繋がらないように、配慮されたのだろうと、
ゆらりと立ち上がりながらAを少し複雑な表情で見つめた萩原。
『ありがとう、ございました』
「…ありがとうございました」
普段口にすることはさほどない言葉だが、
訓練では、開始と終了時に挨拶を交わすことは重要で。
淡々とした表情のAに、慣習に沿ったその言葉を口にし、萩原は1回戦を終えた。
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white12(プロフ) - おと。さん» 嬉しいコメントをありがとうございます。作品をお読み頂けているだけでもありがたいのにそんな風に言って頂けてとても嬉しいです。本作はほぼ書き上げているので肉付けしつつの更新になりますが,今後もぜひお楽しみ頂ければ幸いです。 (2022年7月2日 14時) (レス) id: 35753a7d46 (このIDを非表示/違反報告)
white12(プロフ) - はゆさん» 本作をお読み頂きありがとうございます。作品が大好きと言って頂き,本当に嬉しく思います。描写など,回りくどい表現もあるかもしれませんが,楽しくお読み頂いていて嬉しいです。諸伏は私もけっこうお気に入りです☆今後もお楽しみ頂ければ幸いです。 (2022年7月2日 14時) (レス) id: 35753a7d46 (このIDを非表示/違反報告)
おと。 - タイトルがお話のあらすじ(?)みたいになっていて、とても好きです!描写も丁寧で分かりやすくて、大好きな作品です!頑張ってください!! (2022年7月1日 21時) (レス) @page14 id: e5cb42b723 (このIDを非表示/違反報告)
はゆ(プロフ) - はじめまして!主さんの描く描写や登場人物の繊細な心情が心惹かれいつも更新を楽しみにしてます。普段あまりコメントを残すことはないのですが、この小説が大好きなため書かせていただきました。特に諸伏くんの絡みが好きです。更新頑張ってください!! (2022年7月1日 19時) (レス) id: 064bc96d3c (このIDを非表示/違反報告)
white12(プロフ) - 瑠夏さん» とても嬉しいコメントを頂きありがとうございます。楽しく読んでくださっているとのこと,私もとても励みになります。ありがとうございます。今後もお楽しみ頂ければ幸いです。 (2022年6月29日 19時) (レス) id: 35753a7d46 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:white12 | 作成日時:2022年6月24日 16時