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理由_4 ページ4

降谷は、
その感覚を――知っていた。



「…君は一体――」


触れようとされたことに気づいているのか否か、
男は降谷に振り向いて、眉を寄せて笑みを浮かべていた。


「――ナマエ…?一体、何、なんだ…」



どこかで聞いたような、それを知っているような感覚に唇を噛む降谷。
覚えているのに、――思い出せない。
その奇妙な感覚も、抗っても消せないもどかしさも知っていた。

今、自分が米花市民病院の屋上に来た理由も、
その感覚を知っている理由もはっきりとは分からなかったが、
“知っている”ことを、――理解していた。



「まぁ…、分からないのは当然だろうけどね」

「どういう意味だ。...君は何者なんだ」

「さっき言ったと思うけどね。
キミに見えているのは、
ちょっと話をしたくて力を使ったから…っていっても、ますます怪しまれそうだけど」


首を傾げてそう答える男。
柔和な笑みは、ほんの少し複雑そうに歪められていた。


「…」

「ナマエが、自分のことが見えている人間がいるって相談してきたことがあって。
キミに興味があったんだけど。
っていっても、
もうそれも、…僕にも良く分からなくなり始めてるんだけどね」

「…は?」

「ナマエ…っていっても、
もしかしたらキミには、彼女の名前もうまく結びつけられなかったのかもしれないけど」

「…」


柵に手をかけて、空を仰ぐような仕草をした、礼央と名乗ったその男。


降谷の脳裏に、ぼんやりとある人物の姿が浮かんだ。
――顔はもう分からない。
もちろん、名前も。


でも、その光のような何かを掬おうとして手を伸ばしたことを、
どうしても触れられずにその手が空を切ったことを、
覚えている気がした。




奇妙な会話。
頭の隅に残っている磨りガラスのような領域。

ぼんやりと残っている、言葉や光景。


降谷は、その思考の隅の領域に手を伸ばすように、
ぎゅっと奥歯を噛み締めた。


「…」

「僕らは、そういう存在だからね」


礼央の言葉をどこか遠くで聞きながら、
磨りガラスの向こう側を掴もうと必死で思考を回転させる降谷。


「…そういう、存在?」

「…」


“君みたいな存在はどのくらいいるんだ?”


降谷の脳裏に響いたのは、自分の声で。

そして、


――パリン。



ほんのわずかな音が、聞こえた気がした。

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white12(プロフ) - 桜咲さん» 温かいコメント、ありがとうございます!ご心配・ご迷惑おかけしてしまい申し訳ありません...。お楽しみ頂けていたら嬉しい限りです。本作品をお読み頂き、本当にありがとうございました!次回作は全くの未定ですが、その際はお付き合い頂けたら嬉しいです。 (2022年2月12日 19時) (レス) id: 2b8084ecea (このIDを非表示/違反報告)
white12(プロフ) - reさん» お読み頂きありがとうございます!随分放置してしまっていたのに、そんな風に言って頂けて本当に嬉しいです。素敵な作品を沢山書かれているreさんに嬉しいコメントを頂いて恐れ多い限りですが、もしまた執筆することがありましたらお手に取って頂けたら嬉しいです。 (2022年2月11日 10時) (レス) id: 2b8084ecea (このIDを非表示/違反報告)
桜咲 - 完結おめでとうございます! 更新止まっていて心配していました。体調大丈夫でしょうか...。凄く素敵な作品をありがとうございます!景色もそうですが、心理描写が凄く綺麗で引き込まれました。新作が出たらまた読ませて頂きます!! (2022年2月10日 21時) (レス) id: 8613f618c9 (このIDを非表示/違反報告)
re(プロフ) - 更新、本当に嬉しいです。そして完結おめでとうございます!文章がとても綺麗で繊細で、大好きです。切ないけれど胸が暖かくなるようなお話で、今回もとても素敵でした。寒い日が続きますが、ご自愛ください。新しい作品も楽しみにしています。 (2022年2月10日 13時) (レス) @page21 id: f0490f49ba (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:white12 | 作成日時:2021年10月13日 23時

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