対象者_3 ページ42
――Aは死神ではない。
神のような万能な力があるわけじゃなく、
狩るべき対象に限り、その死期が近づくと名前が認識できる。
Aが茫然と見つめる彼の頭上には、
ふわふわと、手元の資料に書かれていた名前と同じ文字が、浮かんでいた。
そして、Aは、
今更ながら、彼の名前を知らなかったことを思い出した。
「…君か」
息を乱しながらも、
安堵したように肩を脱力させ、大きな息を吐いた降谷。
直後。
ずるり、と壁伝いに座り込んだ彼の腹部には、大きな黒い染みが滲んでいた。
『ちょ、ちょっと――』
「仕事、か？」
『…は？』
これまでにも何度か聞いたそのセリフ。
とっさに降谷のそばにしゃがみ込み、
黒く滲んだ彼の腹部に両手を伸ばしたA。
しかし――、それは虚しくその身体をすり抜けただけだった。
「報告は…受けていないが、
死者が出た可能性も十分にあるからな」
『…え――』
「今日は、君の仕事も…、忙しかったかもしれないな」
『な、何言って…』
何かに安堵したのか、あるいは――。
降谷は、ハァ、ハァ、と乱れた息を挟みながら、
壁にもたれかかり、Aに視線を合わせることなく言葉を漏らした。
その目は、今にも閉じそうで、
呼吸はどんどん浅くなっていた。
『だ、誰か呼んで――』
とっさに周囲をキョロキョロと伺うA。
肉体が死を迎えた魂。
この世に大きな未練を抱えたそれを狩る。
もう何度も目にしたはずなのに、
何百人ものそれを狩ってきたはずなのに、
まるで初めてのことのように、Aは戸惑った。
空はすっかり暗く染まって、
彼の腹部の染みは、ただ、黒く広がり続けるだけで。
手を伸ばすも、それを押さえることは出来なくて。
分かり切っているはずなのに、何も感じないその手を離すことは、Aには出来なかった。
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white12(プロフ) - ra-raさん» 返事が遅くなって失礼いたしました。嬉しいコメントを頂きましてありがとうございます。更新が不定期で申し訳ありませんが，引き続きお楽しみ頂けましたら幸いです。 (2021年9月24日 21時) (
レス) id: 654daa9564 (このIDを非表示/違反報告)
ra-ra - こんにちは！この先どのような物語になっていくのかワクワクした気持ちで読んでます。のんびりと更新待ってます！ (2021年9月19日 17時) (レス) id: f4447b9ee9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：white12
| 作成日時：2021年9月19日 8時
