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Ep.試食の時間_9 ページ29

「へぇ。これ、アヒージョですか」

「メニューに加えようかと思ってるところでね」


ちらりと新一が視線を向ければ、Aの手元にも同じプレートが置かれていて。
といっても、その中身はもうほとんど無くなっていたのだが。


「あ、ありがとうございます」

と、続いて差し出されたコーヒーに口をつけつつ、
新一はさりげなくAの様子を探っていた。


江戸川コナンとして何度も顔を合わせた人物だ。
小野田という男が毒殺されたあの事件現場にも居合わせた人物で。
何より、”降谷零”と何かしらの関係があるらしくて。

今となっては過去形かもしれないものの、
蘭や梓曰く、降谷とは恋人関係の可能性もある訳だが、
彼自身が「この国が恋人」だと言っていた以上それもやはり怪しくて。

単なる好奇心と警戒心も合わさって、彼女のことを探ろうとするのは当然で。


「コーヒーのおかわり、遠慮なくおっしゃってくださいね?」

『ありがとうございます』


梓に静かに微笑んで、
アヒージョの最後の一口を頬張ったA。



新一は、確かに気になる対象ではあるものの、
すっと警戒心を解き苦笑いのような笑みを浮かべていた。


恋人関係なのか。
警察関係者なのか。
公安の人間なのか。


あるいは。



組織の残党がまだいるかもしれない可能性を考えれば、
もちろん、警戒を解くべきではない。
それは、自分自身のためであり、
何より降谷のために。


しかし、新一はもはやそれを追求する気がすぅっと薄れていくのを感じていた。

詳細な関係性はわからない。
ただ、少なくとも安室――、”降谷零”にとって、
良からぬ存在ではないことは明らかだと、根拠のない確証を得たからだ。


それは、
目の前のキッチンで何やら再び作業を始めたイケメンな店員が、
モグモグと口を動かすAのことを、
ふと、優しげな表情で見つめたからだ。


彼女も梓も気付いていなかった様子だが、
わずかな時間に見せたその表情は、
柔らかくてどこか悩ましげで。
新一自身がドキリとするほどで。



あぁ、この人は彼女のことがとても大事なのだなと、
理屈抜きで、誰もが本能で感じてしまうものだったからだ。







「新一くん、どうかした?
あ、もしかして魚介苦手だったとか?」

「――え?あ、…すみません、ちょっと考え事を」


きょとんとした表情で不思議そうに梓に声をかけられ、
少し慌てて口にしたコーヒーは思ったより熱くて、
新一は少し気恥ずかしそうに眉を寄せていた。

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white12(プロフ) - やっちさん» コメントありがとうございます!楽しんで頂けてとても嬉しく思います。また,文章についてもお褒めの言葉を頂き大変恐縮です。お目汚しも多々あったかと思いますが,最後までお読み頂きありがとうございました。 (2022年4月18日 9時) (レス) id: 35753a7d46 (このIDを非表示/違反報告)
やっち(プロフ) - 今晩は。大作お疲れ様でした。読み応えがあり、楽しめました。文章がうまいですね! (2022年4月14日 18時) (レス) @page35 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
white12(プロフ) - pandaheroさん» こちらの作品ですが,申し訳ないのですが,諸事情により公開は控えております。読みたいと言って頂けてとても嬉しいのですが,ご容赦頂けますと幸いです。 (2021年6月7日 20時) (レス) id: 654daa9564 (このIDを非表示/違反報告)
white12(プロフ) - pandaheroさん» 本作をお読み頂き,嬉しいコメントを頂きましてありがとうございます!面白いと思っていただけて本当に嬉しいです。妄想が突っ走る形ではありますが,愛の伝わる作品と言って頂き,身に余るお言葉に感激しています。 (2021年6月7日 20時) (レス) id: 654daa9564 (このIDを非表示/違反報告)
pandahero(プロフ) - また”逃れられない想いとともに”の公開予定はありますか?私は警察学校組の中でも松田さんが一番好きで、そんな彼がメインの物語を素敵な理解をされているWhite12さんの文章で読みたいと願った次第です。ご迷惑でしたらこちらのコメントの削除などお願いします (2021年6月6日 8時) (レス) id: 6df71f9a53 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:white12 | 作成日時:2021年4月13日 18時

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