Marble −茜色の言葉− (12)【名探偵コナン】

茜色だから_4 ページ19

『え…、風見さん、何か用事があったんじゃ――』

「…取り急ぎ、ということじゃないんだろ。
話なら後で聞いておくさ」

『…そう、ですか。
あ…、でも、私は少しお礼を伝えておきたかったんですけど...』

「礼？」



さりげなくガラス玉をポケットにしまい、
少し気まずそうに再び口を開いたAに、降谷が問いかけた。

こんな状況でもさらりと平然を装うところは、
トリプルフェイス――、
いや、"もと"トリプルフェイスさながらと言ったところだろうか。



『…その、警視庁の採用試験を受けようと思ってること、
前に風見さんに話をしていて』

「…」

『受かったというだけでも有り難いことでしたが、
…希望部署にすんなりと話が通ったので。
もしかしたら――って思って』


桜が舞っていたあの日。
Aは、
ちょうど警視庁前で出くわした風見に事情を話していた。
警視庁の刑事に戻りたいと考えていることを。

それは、
様々なお礼も込められた一種の宣言のような話で、
もちろんそういう意味で話したわけではなかったのだが、
何らかの形で立ち回ってくれたのかもしれないと、
Aは感じていたわけだ。


しかしその目は、
窺い知ろうとするようにジトリと降谷に向けられていて。


『…きっと、降谷さんが真っ先に…、聞いてましたよね』

「さぁ…どうだろうな。
僕もそこまで暇じゃ無いからな」

『…』


もし、口利きをしてくれた人物がいるとするなら。

目の前の男だ。


風見が何かしら動いてくれた可能性も十分に考えられるのだが、
立場上、上に物申したのだとすれば間違いなくこの男だと、
またもやAはずいぶんと遠回しな言い方をしていて。



ありがとうございます、と言うのも違っていて。

かといって、
一度警察を辞めた人間が警視庁に入り直すことは可能だとしても、
元いた部署とはいえ、すんなりとまた公安部という特殊な部署に戻れる状況は、
やはり誰かが何かしら動いてくれたんじゃ無いかと思わざるを得なくて。

今になって、
触れられはしなかった温度を感じたとでもいうのか、
何故か頬に少し柔らかい熱を感じた気がしたAは、
その気恥ずかしさを隠す様にしておずおずと頭を下げた。

視線の先には、
先ほど、自分の手に重ねられた彼のすらりとした手が見えて。


悩ましげに少し眉を寄せたA。

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