Marble −茜色の言葉− (12)【名探偵コナン】

茜色だから_2 ページ17

「やっぱり…君は、根に――」

『…』


ぼんやりと、ガラス玉越しに夕陽を見つめるAは少し楽しそうで。
不満そうな言葉を口にしかけて、優しげに目を細めた降谷。



「…そうかもしれないな」

『え…』

「茜色だから…、かもしれないなと言ったんだ」



問うたのは自分なのに、
ふと、驚いたように眉を動かして降谷を見つめたA。


降谷の優しげな声と表情に思わず戸惑った彼女の頬は、
茜色に照らされて、気恥ずかしさを身体中から滲ませているかの様で。





再び視線を逸らして少し黙り込んだAは、



『…っ』



直後、パッと思わず右手を胸元に寄せた。





――気のせいかと、思った。


それでも、
視界の端に映る彼の指が、
それは気のせいではないことを教えていて。


手に残る微かな温度が、
それが嘘ではないことを教えていて。


降谷の長い指先が、
ガラス玉に触れたのだ。


そしてそのまま、
つぅっと撫でるように、
Aの中指と人差し指に残る傷跡に。



数針縫ったその痕を、
まるで癒すかのように。
その手を包み込むかのように。


ガーゼの外れたその肌に残る温度は、
やっぱり気のせいではなくて。


戸惑いながら困ったように降谷を見つめたAだが、
こんなに近くにいるのに、
その視線は彼の姿を上手く捉えることが出来なかった。




いくつもの雲が重なり広がる空は、
水蒸気のせいで一面に散乱された赤に染まっていて。

まるでこの世の全てを茜色に染めてしまうようで。


燃え盛っているような、
不吉ささえ覚える者もいるだろうこの空を、
綺麗だと言って柔らかく眉を寄せる降谷に、
Aはどうしてだか、ドクンと音を立てる鼓動を制御できなくて。



降谷のその綺麗なブルーの目は、
時に冷たく、力強く、
いくつもの覚悟を乗り越えてきた深みを帯びていながら、
ともすれば砕けてしまいそうな、あまりにも優しく溶けてしまいそうなもので。




直視できなかった。

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