それはまるで_7 ページ33
沈黙した2人の間に、ピッピッと鳴り響く電子音。
それが、何度繰り返されただろうか。
しばらくして、
『…もう、…目ぇ覚まさへん人を見るんは、…嫌や』
小さな声で零されたAの言葉。
俯いたままの彼女だが、
立ちすくんだその顔を、
覗き込むまでもなく、松田の目が捉えた。
苦しげに歪められてはいるものの、
何かを思い出しているのか。
何故か少しだけ、
諦めたように、穏やかにも、見えた。
「警察官だったら…、
市民守るために、犯人捕まえるために命賭けんのは当たり前だろ...」
『...』
「被害を最小限に抑えるために動くのも、当たり前のこと...だろ。
...犯人の思い通りにさせるわけ、ねぇだろうが」
松田にしては珍しく正論だ。
目を覚まさない人。
現場でそうした被害者を目にすることなど日常茶飯事。
それは、一般市民だけではなく警察官であることも、
あるわけだ。
しかし、
Aの言葉が、
不特定多数の人間を指したものではないことは、松田は十分に理解できた。
嫌という程に。
それでも、
松田には他に、Aにかけられる言葉が上手く見つからなかった。
『…そんなん、分かってます』
松田の言葉に、
俯いたままみるみる歪み始めたAの表情。
"警察官だったら当たり前"。
そんなこと、
もちろんAにだって分かっているのだ。
以前、
仮眠室でも、彼とそうした話をしたはずだ。
それは、
警察官であるための決して忘れてはならない大事な動機だと、
改めてAが認識したもので。
それでも――。
「お前も、――あの発砲事件のとき、無茶しただろ…」
『…そんなん、言われんでも、…分かって…、ます』
松田の言葉は大して耳には入っていないようで、
涙を堪え、奥歯を噛み締めたA。
そして、
握りしめたままだった右手にさらに力を入れようとした――、
瞬間。
『…っ』
その腕を引かれ、
トサっと何かに、ぶつかった。
それが、何かなど、考えるまでもなく。
ぶつかったのではなく、
包まれたことに気づくのにはそう時間がかかるはずもなく。
肩に柔らかく押し付けられるようにして伝わるその体温は、
Aの涙腺をさらに緩ませた。
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white12(プロフ) - 紅月さん» お読み頂いているだけでもありがたいのに、嬉しいコメントを頂けて、特に台詞や情景についてそう言って頂けて、本当にありがとうございます。夢主は脆さもありつつ芯のある人物を描いているつもりなので、伝わっていて嬉しいです。後少しですが、ぜひお楽しみ下さい。 (2020年7月31日 23時) (レス) id: 8691b63699 (このIDを非表示/違反報告)
紅月 - 文章力が…ッ文章力が有りすぎる!読みやすくて話に引き込まれちゃいます!台詞や情景描写の言い回しがめっちゃ好きです。話の展開、過去の話、主人公の決意諸々…色々が本当に格好いい!更新楽しみにしています! (2020年7月31日 18時) (レス) id: be796dbe9a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:white12 | 作成日時:2020年7月20日 20時