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それはまるで_4 ページ30

『そうなんですね…』

「ったく…、突っ走るのも良い加減にしろって、…言いたいところだけどな」

『…』

「アクセルしかついてねぇって…無茶にも程があんだろうが」


顔をしかめながら、
返事を貰えないことは分かっている彼に苦言を零す萩原。


アクセルしか――などといまいち掴めない言葉ではあるが、
Aは、
彼のやりきれないような表情を見て、
泣きそうなくらい眉を歪めながらとっさに顔を背けた。






“…ったく、あいつは無茶苦茶なんだよ”


2人の姿に尊敬の念を抱いたあの杯戸町のマンションでの爆弾事件。
あの時は、
確か、松田の方が似たようなことを言っていた気がしたA。


この2人の強い関係を、
改めて思い出した、そんな気がした。









「――ま、文句言うのはまたにするか」

『…』

「咲野ちゃんもさ、コイツが目ぇ覚ましたら文句の1つも言ってやってよ」

『あ…』

「なんか、…疲れてるみたいだから、咲野ちゃんもあんまり無茶するなよ?」


不敵に零されたような萩原の笑みに、
Aは苦笑いした。



「松田...、まだ目ぇ覚まさないなら、
俺がそれ、…貰っていこうか?」


そして、軽く首を傾げて問いかけてきた萩原。
Aの膝のビニール袋を見つめながら零されたそれは、
明らかに本気じゃなさそうで、
冗談めいた表情の萩原の口角は、柔らかく緩められていて。

それが精一杯の冗談だということも、Aには良く分かった。



『…ハハッ。いえ、これは――』

「冗談だよ。…じゃ、俺、そろそろ休憩終わりだから」

“またね”

ヒラリと片手を上げて病室を去っていく萩原。


Aは、
静かに笑みを浮かべて彼に頭を下げた。





『また食べてやっても良いって...、言ってた、のになぁ...』


相変わらず鳴り響く電子音は、
1人になった――、
いや、正確には1人ではないはずなのだが、
その空間に残されたAの感情を揺さぶるのが上手なようで。



もう冷めてしまったたこ焼きのパックを軽く掴みながら、
か細い声を漏らし始めたA。



『…熱いうちやないと、また、…文句、言うくせに――』



“確かに冷えてない方が美味いだろうけどな”

以前、あの休憩室で初めてそれを食べた時、
松田はそんなことを言っていた。


文句を言われるとか、
熱くて美味しいままで食べて欲しかったとか、


もう、そんなことはどうでも良くて。




『――何なんよ…』



Aは、心もとない声をポツリと零しただけだった。

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設定タグ:名探偵コナン , 松田陣平   
作品ジャンル:アニメ
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white12(プロフ) - 紅月さん» お読み頂いているだけでもありがたいのに、嬉しいコメントを頂けて、特に台詞や情景についてそう言って頂けて、本当にありがとうございます。夢主は脆さもありつつ芯のある人物を描いているつもりなので、伝わっていて嬉しいです。後少しですが、ぜひお楽しみ下さい。 (2020年7月31日 23時) (レス) id: 8691b63699 (このIDを非表示/違反報告)
紅月 - 文章力が…ッ文章力が有りすぎる!読みやすくて話に引き込まれちゃいます!台詞や情景描写の言い回しがめっちゃ好きです。話の展開、過去の話、主人公の決意諸々…色々が本当に格好いい!更新楽しみにしています! (2020年7月31日 18時) (レス) id: be796dbe9a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:white12 | 作成日時:2020年7月20日 20時

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