Words (4)【名探偵コナン】

ほろ苦い栗ようかん_5 ページ37

“今の公安警察に必要と判断してのこと、か？”


これまでにも何度か頭をよぎった笠間の言葉が、
降谷の脳裏に再び思い起こされた。



(…そういうことじゃ、ないさ)


自嘲気味に笑みを浮かべた安室に、
先ほどまではにかむような顔を浮かべていたAが、不思議そうに首を傾げている。



ただ、壊したくなかった。
降谷にとってはそれだけだった。


見たものを、触れたものを信じて、
事実だと信じたいことを信じて、
そして一番大事だと思うことを、守りたいことを理解していて。
揺らぐことなく受け入れ、目の前の幸せに嬉しそうに微笑んでいる彼女の”幸せ”を。


それは、A自身が口にしたように、
向き合わずに逃げていると思われても仕方のない生き方とも言えたが、
そうではないことも降谷には理解できた。
なにより、強い意志がそこに見えたからだ。







"安室さんのこと、ふと思い出したり――
嬉しい…というか、暖かい気持ちに、なってたのに。
――ここでお話できたこと、本当に、嬉しかったのに"



Aの両親の話を、
過去の話を聞いただけじゃない。

思っても見なかった言葉を告げられ、戸惑ったのはつい昨日のことだ。

そして、
様々な感情が支配するものの、
この空間に、
いや、彼女がいるこの空間に、
何故か暖かい落ち着いた何かを覚えるのは降谷も同じだった。






『あの…、もしかして、ホントは羊かんお嫌いだったんじゃ…』

「え？」


どこか心ここに在らずといった様子で、
羊かんを口に運んでいた安室を、
今度は心配そうにAが見つめている。


ふと、我に返った”安室”は、

「いえいえ。そんなことないですよ…！
この空間...というか、
このお部屋はやっぱり落ち着くなぁなんて、ちょっと、考え事をしていて」


と、慌てて笑みを浮かべた。


ほんの少し塩味が効いた栗ようかん。
甘みを増長させるその隠し味も然り、
苦味のある要素は1つもない。

以前、Aから貰ったそれを口にした時も、
甘さに頬を綻ばせたはずだったのだが。



今、口の中に広がる栗ようかんの味に、
降谷はなぜか少し、ほろ苦さを感じたのだった。

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