静かな苛立ちと冷たい目_2 ページ25
『ですから、何度も言っているとおり、そんなつもりはありません』
「先日ご提示した内容については――」
『新しい物件なんて、どれだけ持ってきて貰っても意味ありませんから』
「そちらの希望に合うように、良い条件を提示しているつもりですけどね。
金額だって――」
『希望って何ですか。私は何も――』
もう話をする気は無いと、レジ台の方へ向かうA。
わざわざ閉店前に来たのも、
客がいない時間を見計らってということか。
不機嫌そうなAを追いかけ、八神もまた店の奥へ向かった。
その時、
本棚の横に積まれていた本が、八神の身体に当たり、
バサバサと音を立てて床に散乱した。
その音に、レジ台の中からパッと振り向いたA。
「あぁ。すみません」
八神は、パパッとそれらを拾い上げて元に戻すと、
そのままAに近づいた。
「それで、渋っているのはもう少し金額を上げて欲しいという交渉ですか?」
『…は?』
「それとも、提示したものよりもさらに条件の良い物件をご希望ですか?」
目の前で、そう問うてくる冷たい声に、
Aはキッと睨むように口を開いた。
『…八神さん。』
「はい?」
『貴方、…本当に本が好きなんですか?』
“は?”と、ポカンとしている八神の横をすり抜けて、
Aは先ほど散乱した本が積まれたところへ歩いていく。
パパッと、適当に元に戻されたそれら。
1冊1冊手に取り、
大事なものを扱うかのように両手で捲っていくA。
「あぁ。もし破損箇所があれば弁償させて頂きますよ。
何なら、提示金に追加して――」
『…お金のことにしか興味ないんですか』
「は?」
『この間から、お金だの物件だのって…』
パラパラと、
1つずつ本を確認しながら、Aは八神に一切視線を合わせず、呟いた。
いつもより、低いトーンのその声は、
Aの苛立ちを表しているのは明白だった。
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white12(プロフ) - なーこさん» 少々複雑な話になった気もしています。降谷が絡むとどうもそういう話になるようで...(苦笑)。本作も、最後までお読みいただき本当にありがとうございました。 (2020年7月15日 15時) (レス) id: 8691b63699 (このIDを非表示/違反報告)
white12(プロフ) - なーこさん» 互いに全く違うような感じですが、実はかなり近しいところもあるというか、本質的な部分を描きたかった本作でした。ちょっと切ないと言うか本質的に互いが抱える葛藤をさらに抉るような部分もありつつ、理解しあっていく(おもに降谷が、ですが)という... (2020年7月15日 15時) (レス) id: 8691b63699 (このIDを非表示/違反報告)
white12(プロフ) - なーこさん» 今更ながらの返信ですみません...。いつもコメントありがとうございます!2人の微妙な関係と、なぜかお互いに心地よさを感じるという矛盾のような必然性のようなそういったところが伝わっていてとても嬉しく思います。 (2020年7月15日 15時) (レス) id: 8691b63699 (このIDを非表示/違反報告)
なーこ(プロフ) - 完結おめでとうございます´`*普段時間の針が穏やかに進んでゆっくりなのに突然リズム乱して刻みだし早さ一定してない相原さんと普段寸刻を争い生きている降谷さん。2人一緒だと時空が歪みそうなのに何故か心地良くて...撒き塩での出会いが懐かしくしんみりします*。 (2020年7月6日 4時) (レス) id: e08e419bfb (このIDを非表示/違反報告)
white12(プロフ) - りんさん» お目汚しになった箇所も多いと思いますが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。また、他の作品でもお会いできましたら幸いです。 (2020年7月5日 0時) (レス) id: 8691b63699 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:white12 | 作成日時:2020年6月17日 21時