オレンジに染まる曇り空_9 ページ18
『といっても、祖母から聞いた話なので。
もちろん、その時のことを覚えていると言うわけではありません。
あの事故のとき、両親が守ってくれたんだって。
…お父さんとお母さんのおかげなのよって。祖母が。』
「…」
『当時の事故のことは分かりません。
母は警察官だったのか、
あの事故は本当は事故じゃなくて、…警察のせいだったのか。
でも、私にとっては、両親が守ってくれて、今生きることが出来てるんだって、それだけが事実です。そう、思っています。
父が、...母に、殺されたわけがないってことです。
そして、祖父母に、大事に育てて貰ったことだけが、事実です。』
もう一度安室に視線を向けたAは、ふわりと笑った。
切なげな色は、消えていた。
信じようとしている″事実″には、
揺らぎはないようで。
「そう...、ですか。
それを、調べようと思ったことは…?」
『もちろん、気になって祖父母に聞いたことはあります。
しつこく聞いて、祖父に怒鳴られたことも。
本当は、何度も...、祖母に悲しい顔をさせてしまいましたし。』
「…」
『話そうとしなかったということは、私は知るべきではないんだと思います。
父の写真は、遺影と何枚かの写真だけ。
母の写真が1枚もないのは祖父母によって処分されてしまったのか、
あるいは――、初めから残っていないのか。
何か理由があるのかもしれません。
でも、知りたいとは、もう、思いません。』
写真の1枚も残っていない。
その理由に心当たりがありすぎる安室は、小さく眉を寄せた。
命を落とすことになるあの事故の3年前。
つまり、奈々が生まれる前には警察を辞めていたはずだが、
それでも、それまで関わってきた案件を考えれば、
簡単にそうしたことが出来るようになる訳じゃないだろうことは、
当然のように理解が出来る訳だ。
何より、結婚の経緯を考えれば――、
それは当然だと思われた。
それは、"彼"を守ることでもあったのだろうことも。
「”知りたいとは、もう思わない”…、ですか」
『過ぎ去りしことは、過ぎ去りしことなれば、過ぎ去りしこととして、そのままにせん。』
「え?」
『ホメロスの....、 「イリアス」に出てくる言葉です。』
そう言ってニコリと笑うA。
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white12(プロフ) - なーこさん» 少々複雑な話になった気もしています。降谷が絡むとどうもそういう話になるようで...(苦笑)。本作も、最後までお読みいただき本当にありがとうございました。 (2020年7月15日 15時) (レス) id: 8691b63699 (このIDを非表示/違反報告)
white12(プロフ) - なーこさん» 互いに全く違うような感じですが、実はかなり近しいところもあるというか、本質的な部分を描きたかった本作でした。ちょっと切ないと言うか本質的に互いが抱える葛藤をさらに抉るような部分もありつつ、理解しあっていく(おもに降谷が、ですが)という... (2020年7月15日 15時) (レス) id: 8691b63699 (このIDを非表示/違反報告)
white12(プロフ) - なーこさん» 今更ながらの返信ですみません...。いつもコメントありがとうございます!2人の微妙な関係と、なぜかお互いに心地よさを感じるという矛盾のような必然性のようなそういったところが伝わっていてとても嬉しく思います。 (2020年7月15日 15時) (レス) id: 8691b63699 (このIDを非表示/違反報告)
なーこ(プロフ) - 完結おめでとうございます´`*普段時間の針が穏やかに進んでゆっくりなのに突然リズム乱して刻みだし早さ一定してない相原さんと普段寸刻を争い生きている降谷さん。2人一緒だと時空が歪みそうなのに何故か心地良くて...撒き塩での出会いが懐かしくしんみりします*。 (2020年7月6日 4時) (レス) id: e08e419bfb (このIDを非表示/違反報告)
white12(プロフ) - りんさん» お目汚しになった箇所も多いと思いますが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。また、他の作品でもお会いできましたら幸いです。 (2020年7月5日 0時) (レス) id: 8691b63699 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:white12 | 作成日時:2020年6月17日 21時