4869 (4)【名探偵コナン】

黒の言葉と本当の名前_12 ページ16

以前、酔ったフリをしてここに運んでもらった時、
暗がりの中で探った部屋。


ローテーブルには開いたノートPCが置かれている。


シンプルな部屋はさほど変わっていなかったが、
本や書類が増えているように感じた。

研究所との往復生活は続いているのかもしれないが、
以前ほど根詰めたような生活ではないのだろう。
そもそも研究所が稼働していないのだ。
それも当然か、と景光は納得した。


『…ちょっと散らかってますよね。すみません。
座って待っていて貰えますか？』


手早くテーブルを片付けたAは、
景光を残しキッチンへと向かった。

ラグの上に座るでもなく、
カウンター式になっているキッチンに立つAの姿をチラリと見つめる景光。


『メールに書いた、杯戸町のRainっていうお店。
時々行くんですけど、コーヒーがすごく美味しいんです。
なかなか真似は出来ませんけど、ちょっと研究していて』

「研究？」

『温度とか、豆の量とか、ドリップの時間とか…、
かなり味が変わるので。結構楽しいんです』


以前、自身が監視していたときとは別人のように、
柔らかい表情で言葉を零してくるA。

口数が少なく落ち着いた印象を持っていた景光だったが、
それは、様々な要因があった故の彼女の印象であり、
本来はこうした人物なのだろうかと、どこか嬉しそうに口元を緩めてAの話を聞いていた。


『一滴一滴、静かにポットに落ちていく様子とか、見ていると綺麗で。
…ギターの他に、趣味が出来たかもしれません』


カウンター越しに景光に笑いかけたA。


“もう少し待っていてくださいね”
と笑う彼女に、その手元のコーヒーポットを見つめながらゆっくりとキッチンに近づいた。

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