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雷鳴轟く朝の_10 ページ49

降谷のスキルも、行動パターンも、その性格も。
もちろん知っているわけじゃない。
しかし、今の話の流れから、Aは何となくそう思ったのだ。

何故なら。
手元にPCがあれば、自らも同じことを考えるだろうから。
実行するか否かは別として。
今は事務官だという立場は、別として。




既に明かりが点いた室内。
隔てているものはガラス扉で、閉塞感があるわけでもない。
しかし、“閉じ込められている”という、不思議な状況だ。
よりにもよって、この男と同じ空間で。


本来なら間違いなく反発心に似た不満だけを抱いたのだろうが、
複雑な感情の中で、
なぜかじわりと安心感に似た感覚があることに、
悔しげに口元を歪めたA。

それは、
言葉を交わす度、
彼を目の前にする度、
読み取れるはずもない降谷の表情を、感情を、
なぜか、読み取れるような、
そしてなぜか、理解できるような、
そんな気がしてしまうからだった。


今のこの状況においても、
どこかでそう感じてしまっているらしい自分に悔しげに眉を寄せたものの、
身体の中に感じる落ち着いた柔らかな温度に、肩の力が少し抜けていくようで。
それは、不可抗力のように感じた。



『こんなことがあるなら、
事務官室のように、
普通の鍵を使ったシステムにした方が…良さそうね』


もうすぐ来るだろう管理部の人間を待ちながら、
ガラス扉の鍵を見つめ、
Aは複雑そうに深いため息をついた。



そして、
降谷が見つめるディスプレイには、
蛍光色で縁取られたラインで描かれた図面のような図形、
そして、アルファベットだらけの文字列が並んだ黒いウィンドウがいくつか立ち上がっていて。

A自身は知る由もないのだが、
彼女の推測は的中していたらしい。


しかし――、



”一層面倒なことになるでしょ”

「…」


激しい雨の音とキーボードの音だけが響く室内で、
先ほどのAの声が脳裏で反芻され、ピタリと指の動きを止めた降谷。


不本意だと言うような不満げな顔をした降谷は、
様子を伺うようにちらりとAに視線を向けて、深いため息をついた。


視線を向けられていたことにも、
そして、彼の口からも同じようにため息がこぼされていたことに、
Aは気付くはずもなく。


それから1分ほどして、

須藤とともに管理部の人間が駆けつけ、
雷鳴轟く朝の思わぬ事態は、無事に収束したのだった。

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作者名:white12 | 作成日時:2021年1月7日 18時

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