雷鳴轟く朝の_8 ページ47
そして、
ただの金属部品とも言える鍵が停電の影響を受けるはずもないと、
怪訝そうに鍵を見上げたA。
「電子システムと連動しているんだ。
本来は独立して動かせるはずだが、...固まってしまったらしいな」
『非常時にこれじゃ、全く役に立たないわね』
「まぁ、幸いガラス扉だ。ぶち破って出れば良いんじゃないか」
『物騒なこと言わないで』
ガラスを割るための何かを探しているのか、
スマホのライトをかざしながら周囲を見回し始めた降谷に、
Aがため息をついた。
「君がという訳じゃない。
僕だってここから出られないのは困るからな」
『警備員が飛んでくるわよ。一層面倒なことになるでしょ。
それに…、今すぐ外に出ないといけない事案が発生したならともかく、
余計な経費を使うのはどうかと思うけど』
「…事務官としては、それが正しい意見だろうな」
扉を破壊すれば復旧経費がかかる訳で。
鍵の操作のため、電子システムと連携しているガラス扉だ。
システムにも余計な影響を与えるかもしれない。
Aは至って普通のことを口にしているだけだ。
しかし、それはあくまで事務官としてであり、
すぐさま対応すべき案件が発生すれば、
蹴破って外に出ていた――いや、”彼を”、外に出していたはずなのだが。
その時。
パッと室内が明るくなり、
2人は思わず眩しくて目を細め、小さな安堵の息を吐いた。
「…ようやく復旧か」
明るくなった室内で、
ICリーダーに再びカードキーをかざした降谷。
直後、やはり同時に2人の眉が歪められた。
『…故障ってとこね』
「…管理部に連絡だな」
“解錠”というLEDが点いたまま何も反応しないICリーダーを前に、
思わず見合わせた顔は、互いによく似たもので。
深いため息をついて、スマホを操作する降谷。
そして、Aもまた手元のスマホのディスプレイを眺めて、思案していた。
(…雪野さんは、さすがに――。
椎名くんも、…ダメよね。部長は...ありえないし)
事務官室には建物内の鍵が管理されている。
もちろん、マスターキーは全て管理部にあるのだが、
事務官とて状況に応じて各部屋を解錠することもあるわけだ。
しかしこんな時間に連絡するわけにはいかず。
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作者名：white12
| 作成日時：2021年1月7日 18時
