Marble －茜色の言葉－ (6)【名探偵コナン】 (ページ23)

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狂い咲きの_9 ページ23

「その時に、同じことを思った。
薄っぺらいと思いながらも、桜を見て、そう思った。
あの数ヶ月の間に得たものが、
間違いなく、僕を作っているものだという自負があったからな。
…その後の、経験も、記憶も、全部。積み重なって今がある。
桜を見る度、あの日を思い出して、そう、思える」

視線を合わせることなく、呟くような降谷の声は、
狂い咲いた1輪の桜に話しかけているかのようで。
同情かあるいは何かを探ろうとしているのかなどと考えてしまっていたAは、
独り言のつもりだったのだろうかと、眉を寄せた。

遠くを見るように、
優しい目をして桜の花を見つめる降谷の横顔に、何も言えなくなってしまったのだ。

独り言だと思っても、
やはりどこか自分のことを見透かされているようで。

悔しさと、
小さな気恥ずかしさと、
そしてもちろん、反発心は消えないままで、

それでも何故か、
この男の言葉が何故か、ストンと心に落ちるのだ。

彼が失った大事な同期。
もしかするとそれだけじゃなくて、彼は他にも――。

でもそんなことはもう知りたいとは思わなくて。
踏み込みたいとは思わなくて。

ただ、ストンと落ちて、
じわりと染み渡るような降谷の言葉が、
その声が、Aの眉をぐにゃりと歪めさせたのだった。

「もしかして知らなかったのか？」

『…は？』

「たかが植物の生態だとしても、
教養をつけておくことは基本だろ」

『…』

ふと、視線が絡んだと思えば、
まるで上司からの注意のような言葉を投げかけられ、
瞬きを繰り返したAは、

『私は…警察官ではありませんし、
貴方の部下でも、ありません』

と、少し仏頂面を浮かべて降谷を見つめた。