あの夜の_4 ページ49
「…アンタ、大丈夫かよ」
『え…、大丈夫、ですけど』
「分かり易すぎる嘘ついてんじゃねぇよ」
反射的な、とでも言うべきか。
無意識に口から溢れた強がりの言葉に、
“大丈夫”という言葉に、
サングラスをかけていない松田の顔が、みるみる歪められ、Aは一歩後ずさりをした。
「この辺りだっただろ」
『…え？』
「アンタが襲われた場所。
…ったく、怖ぇんだろうが。」
“行くぞ”と、自身を追い越すようにして歩き出す松田に、
状況が掴めずその場を動けないA。
「何してんだ。アンタん家、帰んじゃねぇのかよ」
『え？』
「…そんなんでわざわざ1人で萩のマンションまで来たのかよ」
『あ…、近かったので、その…、何となく』
はぁ…と大きなため息をつく松田に、
そして、歯切れの悪い自分の言い訳に、自分自身で顔をしかめるA。
「アンタん家、すぐそこだろうが。行くぞ」
『え…あ、ちょっと待って――』
松田に付いていくようにして、
自身のマンションへと帰っていくA。
ゆっくりと、少しだけ前を歩く松田は、
自身の方を振り返ることはなく、
いつの間にタバコを咥えたのか、
ふぅ、と紫煙を吐き出していた。
(…送って行ってくれるって、こと…か。
刑事さんだもんね…)
自宅も知られているのだ。
1度、萩原とともに自宅に訪ねてきた訳で。
再び襲ってきた震えは、
松田と会話を交わしているうちに、消えていた。
有難い、と思いつつも、
それにしても分かりにくい人だな、と
Aは苦笑いをし、素直にマンションまで松田に送られたのだった。
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作者名：white12
| 作成日時：2019年12月5日 19時
