歯切れの悪い訪問客 ページ23
『…痛っ…』
翌日。
仕事を終え帰宅したAは、洗濯物を片付けようとして、
腕の痛みに顔を歪めた。
Aは右利きなのだが、今は右手はほとんど使えない。
代わりに左手で様々なことをこなそうとはしているのだが、
なかなか上手くいかないのだ。
左手に抱え、軽く支える程度に右手で押さえていたタオルの山は、
あっけなく床に散乱してしまった。
昨日の打ち上げのように、
グラスを左手で掴む程度は簡単なのだが。
『あーあ…』
ため息をつきながらタオルをもう一度畳むAは、
ふと鳴り響いたインターフォンの音に、モニターへと視線を向けた。
『…この人…』
もう21時を回っている。
こんな時間に誰だ、と不審に思ったが、
モニターに映っていた人物に、今度は不思議そうな表情を浮かべるA。
『…まだ何か聞きたいことでもあるのかしら』
カチャリ、と左手で鍵を開け、
同じく、左手でドアをそっと開くと、
そこには、あの刑事の男、松田の姿があった。
『あの…、どうかしましたか?事件のことなら、病院でお話したはずですけど…』
「あー、ちょっとな。
…腕、大丈夫か?」
『え…、あ、はい。痛みはありますけど、平気です。
もしかして...、それを聞きに来たんですか?』
「いや…そうじゃねぇんだが」
律儀なのか責任感なのか、それでも、こんな遅い時間とは何となく失礼というか、
よくわからない表情でAが問いかけるも、
何やら歯切れの悪い松田。
そして、すっと彼の後ろから顔を見せた人物に、
Aは小さく目を見開いた。
『え…』
「悪い。遅い時間に。
…さすがに会社まで行く訳にはいかねぇから」
『…は?』
会社まで行く訳にはいかない?
何の話だ。
やはり事件のことでまだ聞きたいことがあるのか。
なら、何故、松田という刑事が歯切れが悪そうに気まずそうにしているのだ。
58人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:white12 | 作成日時:2019年12月5日 19時