一段落 ページ20
2日後。
出来上がった修正案を納品するためA社へ向かうA。
その隣を歩く湯川は、心配そうな表情を浮かべていた。
「…あの、大丈夫ですか？腕…」
『えぇ。納品案を説明するくらい問題ないわ。ありがとう』
一応、しばらく通院が必要なため、
黙っておくわけにもいかず、
社内の人間には事故に遭ったことにしていた。
…襲われたといっても、事故のようなもので、
嘘ではない。
ただ、ナイフで切られた右腕の傷は決して浅くはなく、
右手にはあまり力が入らず、今は思うようには動かせない状態だ。
医者には、全治1ヶ月、と言われているが、
一応、1週間ほどすれば、少しは力が入るようになるだろうということだ。
『それよりごめんね。度々付き合わせちゃって。
今日はもう大丈夫だと思うんだけど』
「いえ。一度同席させて頂きましたし、手伝わせて頂いているので、
最後の納品の今日も、ちゃんと同席させて頂きたくて。
石田はもう一つの案件の方で手一杯ですけど…」
『部長になにか言われたら、
無理に手伝わされてるって言ってね。
一応、湯川に手を貸して貰ってることは伝えてるんだけど。』
「大丈夫ですよ。
営業部長は、自分の案件以外は、
クリエイターの方まではあんまり何か言ってくることはないですから」
湯川の言葉に、”ありがとう”とAは苦笑いをした。
そして、歩く振動で鈍く痛む右腕にさりげなく手を当て、
冬で良かった、と心底安堵した。
痛々しい包帯を見られるようなことは、
ネガティブな印象を与えてしまう恐れがあり、営業のAにとっては痛手だ。
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作者名：white12
| 作成日時：2019年12月5日 19時
