好奇心 ページ9
翌日の夜。
米花町のBar Curiousのカウンターで、グラスを傾けるA。
(…A社の案件は、とりあえず無事納品出来そうね。
良かった。これ以上難癖付けられなくて。)
今朝、修正案を持って、湯川とともにA社を訪れたA。
先方も、北川だけではなく本部長が同席していた。
北川だけに対応を任せていられなくなった事情でもあったのだろうか、
とAは心の中でニヤリと微笑んでしまった。
提示した案はほぼ承諾を得ることが出来、
あとは細かな部分の追加修正のみだ。
2日もあればできる内容。
納期まではあと10日。
全体の再確認を合わせても十分間に合う。
Aは安堵した様子で、
久しぶりに口元を緩めながら、カクテルを口に運んでいた。
それは、やはり淡いブルーのカクテルだ。
そして、そのカクテルを教えてくれた人物のことをふと思い出すA。
仕事の悩みがひと段落つくと、
こうしてプライベートの悩みが押し寄せてくることを、Aは良く知っていた。
あれは、東都駅近くのBarだった気がする。
デートの帰り、康太と行ったBarだ。
(可愛くない女だったなぁ…)
北川のこともそうだ。
仕事のことで相談することもなく、
何かがあっても強がって。
そして、何かがある度、
それが重なる度、
自分から連絡することをだんだん躊躇うようになって。
休日も仕事の案件を優先してしまうことの多かったAが、
愛想をつかされてしまったのは当然で。
Aは自嘲気味に目を細め、
残りのエメラルド・ミストを飲み干した。
“もしかして、泣いてる?”
何故急に脳裏に浮かぶのか。
ふと思い出した萩原の声に、Aは見るからに不快そうに顔を歪めた。
しかし、その表情はどこか泣きそうにも、見えた。
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作者名:white12 | 作成日時:2019年12月5日 19時