ストーカー ページ34
『…っ…』
12月下旬の夜風は冷たい。
店を出て歩き出したAにとって、
我に返るように思考を冷静にしてくれるその冷たさが、有難かった。
そして、
RRRRR
カバンの中から響いた着信音に、
スマホを取り出すA。
ディスプレイには、
“康太 (こうた)”
の文字。
『もしもし?康太?』
「あ、A。ごめんな。夜に。
ちょっと話したいことがあって――」
そして、立ち止まってしばらく受話器の声に耳を傾けていた Aは、
『…うん。そうだね。
…そう、しようか。』
と、ポツリと零した。
“今まで、ありがとう”
その決まり文句のような言葉とともに。
『はぁ…』
通話を終えたAの口から零れる大きなため息。
同時に目に映る自身の白い息に、
何やら暖かさを感じて、ジワリと涙が滲んだ。
“最近、まともに会えてないし。
A、ずっと忙しいみたいだし。
俺たち、本当に付き合ってるって言えるのかなって…
Aは強いから俺なんかいなくても平気みたいだし…”
康太の言葉が脳裏に反芻される。
クリスマスには会う約束をしていたのだが、
それ以前にかかってきた電話。
何も言えなかった、彼からの別れの電話。
北川とのことは、
少しだけ相談したことがあった。
でも、本当に悩んでいるとは言えなかった。
それ以上に、
優しく触れられることに、そっと手を伸ばされることに、
反射的な恐怖感を抱いてしまうことが増えていたA。
自身の彼氏である康太に、さえも、だ。
それが、そう感じてしまう自分が、何より、嫌だったのだ。
それを知られてしまうのも、怖かった。
『…はぁ…』
街灯の下。
俯いて大きな息を吐き出すAは、ぐっと強く手を握りしめた。
(…男性恐怖症ってやつ…じゃないと良いけど)
北川以外にも、
取引先の男性社員と関わる機会は山ほどある。
まともに関われないなんてことになったら、
仕事に差し支えてしまう。
そんな風に考えてしまう自分に、涙腺が大きく緩んだ。
「…やっぱり、嘘つきだな。君」
『…え…』
「光の反射、じゃないだろ」
立ち止まったままだったAの前に現れた男に、
先ほどまで店にいたはずのその男に、
度々顔を合わせるその男に、
Aは大きく顔を歪めた。
『…貴方、ストーカー…?』
「結構口悪いとは思ってたけど、人聞き悪いこと言うなよ。
…松田みてぇだな。」
『…誰よそれ』
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作者名:white12 | 作成日時:2019年11月29日 22時