長野からの依頼_2 ページ2
1ヶ月前。
一度顔を合わせたことのある男、笹木啓太が、
ポアロに、
“安室”の前に、突如現れた。
(…コイツ…
どれだけ調べてるんだ…)
安室が一瞬険しい表情を浮かべるも、
笹木は、
スタスタと、カウンターにいる安室の前に一直線に歩いてきたかと思うと、
「…ありがとう、ございました。」
そう、しっかり目を合わせて告げてきたのだ。
『えっと…何の、話ですか?』
安室は、何も分からない、
として、あからさまにきょとんとした顔をする。
実際、何のことだか理解出来なかったのだが。
そのまま店を出ようとする笹木が、
スマホのディスプレイを見ながら、
顔を歪めて泣きそうな表情を浮かべていたことは、
カウンターにいる安室からは、
見えなかった。
そこには――
“これ、ハッキングしちゃダメよ。”
見知らぬフリーメールアドレスから届いた1行のメール。
アドレスから、
送信元のIPから、
追跡することを禁止する、たった1行の文言。
降谷に詰めよった際、
彼は、
片桐Aが”死んだ”とは口にしなかった。
本当に死んだのか、
なぜ死んだのか、についても、
口を開かなかった。
そして、
公安マターとして、
その生死は未だ伏せられていた。
Aが、公安によって助けられたのだろうこと。
公安によって、保護されているのだろうこと。
だからこれ以上、関わるな。
目の前のディスプレイに浮かぶ1行は、
“元”上司からの、指示であると、
そう解釈したゆえの、謝罪を含めた降谷への礼だったことも、
当の降谷は、知る由も無かった。
―――そして同じ頃、
Aの旧友である藍沢 静香もまた、
自身の部屋で、
泣きそうに顔を歪めながら瞳を揺らしていた。
その日の朝に、
マンションのポストに届いた小さな袋。
中には、
マリーゴールドが一輪。
それは、
高校時代に2人で交わした会話を彷彿させるものだった。
“誕生日に、その日にちなんだ誕生花を贈るって、
素敵だよね”
そう言って、
1度だけ、互いの誕生花をプレゼントし合った記憶。
自身の誕生日である7月18日。
その日に届いた、
小さな誕生花。
(…A…だよ、ね…)
Aは、どこかで生きている。
1輪のマリーゴールドを見つめながら、
静香は、強く目を瞑ったのだった。
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作者名:white12 | 作成日時:2019年7月25日 18時