Rain (3)【名探偵コナン】

クレーム_2 ページ42

『…っ…』

もう一度重ねられた唇に、
ピクリと肩を揺らすA。

今度は、わずかに、じゃない。
はっきりと感じる温度。

鼓動が速い。
掴まれた手首が、熱い。

離れていく松田の顔を見つめるAの頬は、
わずかに紅潮しているようだ。

反対側の手で再び覆おうとする口元は、
ほとんど隠れてはおらず、次を期待しているようにも見える。


「嫌なら逃げるか、
やっぱりクレーム入れとけって言いたいところだけどな。
…その必要はなさそうだな」

『え…』

「分かりやす過ぎだろ…ったく…」

松田は、
文句を垂れるように、
しかし、優しいトーンで言葉を吐いた。


昨夜あんなことがあったばかりだ。
刑事としてじゃない、1人の男として心配していたのは否めない。
しかし、ただ、様子を確認したかっただけ。

不本意にも、ただの”情”ではない自身の気持ちには気づきつつあったものの、
Aには拒絶されていると思っていた。

しかし、
素敵な人だなどと、まるで告白のような言葉を零したAに、
嫌がる様子を微塵も見せないAに、
もう男に関わり合いたくないと口にした彼女を、困らせるようなことはしたくなかったのだが、
つい迫るようにして唇を重ねてしまった。


そして、あまりにも分かりやすい反応を示すAに、
松田は再び小さく顔を傾けると、ふと眉をよせた。

「...誰にでもそんな顔してんじゃねぇだろうな」

『...ち、ちが――』

今度は責められるように見つめられ、
焦ったように視線を彷徨わせるA。


『...松田...さん、だから...』


まるで初めて男を前にした女のように、
だんだん俯きながら言葉を零すAに目を細める松田。
そして、空いていた方の手をAの顎に添えると、
彼女の視線を強引に自身の視線と絡ませた。


「アンタ…、やっぱり男運ねぇな」


小さく息を吐き、そんな自虐的な言葉を零すとともに、
もう一度その距離を近づけてくる松田に、
Aは暖かくて何だか泣きそうな感覚を覚えた。


既婚者なのかどうか、萩原さんに聞いておけば良かったかもしれない。
そんな考えがちらりと過ぎるも、
目の前の男を信用してしまうAは、やっぱり懲りないのか。
それとも、
この男はAの言った通り、優しく、誠実な男なのか。


投げかけられた自虐的な言葉に、
”そんなことないです”と言わんばかりに、
口元を緩めて静かに目を閉じたAに、
松田は、今度はそっと、長い口づけを落としたのだった。

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