Rain (3)【名探偵コナン】

確かめてみれば_2 ページ37

『あの、…本当にありがとうございました。
今日はもう片付けてしまったので、コーヒーはお出し出来ませんけど…』


もう一度小さく頭を下げたAは、
松田に背を向け、カウンターの方へと戻っていった。


「…いや、ちょっと心配だっただけだ。
...気をつけて帰れよ。
何かあったら、佐藤か、…萩原にでも連絡しろ」

松田は、昨夜佐藤から聞いた侑斗の供述の内容については、
一切口にしなかった。

仕事で上手くいかなくなり、
付き合っていた彼女とも別れ、
自暴自棄になりかけていたこと。
ふと、SNSでAの店のことを知り、
会いたくなって足を運んだこと。
恨みなど毛頭ないが、結婚するなどと言い、
拒絶してきた彼女に執着してしまったこと。


敢えて、これ以上傷つけるようなことを、
口にしたくはなかった。



そして、そのまま店を去ろうとした松田の耳に、
ポツリと、Aの声が聞こえた。


『…何で』

「ん？」

『何で…、萩原さんなんですか』

背を向けたまま、聞き返すように口を開いたAに、
松田が苦い表情を浮かべた。


「…アイツも警察官だからな。
まぁ、…軽いやつだけどな、仕事になりゃ、一応頼れるやつだからな」

『…何ですか…それ…』

「…アンタにも手ェ出してただろうが。アイツ。
アンタもそうやって簡単に迫られてっから――」


佐藤か萩原を頼れ。という話から、
何故か怒ったような口調に変わり、Aを責めるように言葉を続ける松田。

萩原の弁解に聞く耳を持たなかった彼は、
萩原とAがキスをしていたと未だに思っているのだ。
気にし続けてきた訳ではないにせよ、
思い出せば無性に苛立ってしまう訳で。


以前、
良い大人がキスされたくらいで、
などと、Aに対してそんなことを思っていた松田だったが、
話しているうちにジワジワ湧き上がってきた苛立ちを隠そうとはしなかった。



『何の話…ですか…？』


松田の言葉に振り向いたAは、
何の話か掴めず、眉をひそめ、怒ったような表情を浮かべた。


「詮索するつもりはねぇけど…、アイツは、付き合ってる訳じゃねぇって言ってたしな。
店の中で、しかも店開いてる時間だっただろ。
…あんな風に簡単に男に迫られてんじゃねぇよ」

『…』

Aの頭にふと、ある日の出来事が思い出された。
最後にこの店で松田と顔を合わせた日。
店に現れるも、すぐに帰ってしまった日。

萩原に顔を近づけられ、
血が滲んだ唇を心配された…、あの日のことが。

確かめてみれば_3→←確かめてみれば

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す