Rain (3)【名探偵コナン】

時間外の客_2 ページ35

そして、閉店後。
やはりきっちりと施錠をして、店内の掃除をするA。

“お疲れ様でした”､という言葉とともに、
今日もサイフォンを綺麗に掃除しながら、
ふと、カウンターの隅の席へ視線を送った。



連日、店に来てくれていた時。
松田がいつも座っていた席だ。



(…お礼、言えなかったな。)


以前に登録した松田の携帯番号は、
既に自身のスマホから削除していた。

貰ったメモはまだ手帳に挟んでいるため、
連絡することは可能なのだが、Aは躊躇っていた。

“昨夜はありがとうございました”

ただ、それだけ伝えれば良い話なのだ。
電話が難しければ、
ショートメールを送れば済む話。


事情聴取の際、
佐藤には、”松田さんに、お礼を伝えておいてください”と言ったものの、
助けて貰っておいてそれは失礼じゃないか、
という気持ちもあった。

しかし、その気持ちが、
単なる言い訳であることを、Aは充分に分かっていた。

だから、連絡出来ないのだ。


クロスを持った手を止め、
はぁ…と、大きなため息をついた時――


チリンチリン…

と、入口ドアの鈴の音が、した。


といっても施錠をしているのだ。
もちろんドアが開くことはない。

しかし、ドアの窓からチラリと見えた人物の姿に、
Aはクロスを投げ捨てるようにキッチンへ置くと、
慌ててドアの方へと向かった。







カチャリ

と、ドアの鍵を開けるA。


これまでに何度か、
閉店作業中に、こんな風に鈴の音が聞こえたことがあった。

閉店後は店の電気は所々しか付いておらず、
閉まっていることに気づきそうなものだが、
誰かが店に入ろうとしたのかと、
あるいはまた侑斗が来たんじゃないかと身構えたものの、
店のドアや窓からは誰も見えず、その時は気のせいかと、思っていた。

でも、昨夜の侑斗の話から、
店に入ってこようとしていたのは、それはおそらく侑斗だったんじゃないか。
それを、制止されていたということだったんじゃないか。


ゆっくりドアを開いたAの手の横から、
静かに店に入ってきた、この人物に。
もう、常連客ではなくなってしまった、
時間外の、客に。


『松田、さん…』



昨夜、自身にかけて貰ったコート。
事情聴取を終え、警視庁から自宅へ送って貰った後、
佐藤に返したあの黒いコートを纏う松田は、
わずかに眉をひそめていた。

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