Rain (3)【名探偵コナン】

指輪_3 ページ28

「…」

口を開かず近づいてくる侑斗に、
Aは後ずさりをするように距離をとる。

大通りに辿り着くには、あと2本路地を越えなければならない。
周囲に通行人は少なく、
この寒さだ。皆、足早に通り過ぎていくだけで。


『…』


侑斗を睨むように見据えながら、
眉をひそめるAは、カバンに手を入れ、スマホを取り出した。


『…近づいたら、大声出す――』


じわりと近づいてきていた侑斗は、
急にその歩幅を大きくし、Aの右手首を掴んだ。


『…ちょ…っと、やめて…！』


そして、そのまま、先ほど自身が姿を現した路地の方へと引っ張っていく。
やめて、と声のトーンをあげるAだったが、
通行人はちらりと視線を向けるだけで、足をとめようとはしない。

大人の男女の口論。

何も知らない人間からすれば、
痴話喧嘩のようにしか聞こえない状況だ。



「…A。」

『…離して！』

侑斗から逃れようと、
掴まれた右手首の先の握ったままのスマホを操作しようと、
抵抗するAだが、その手は路地の壁に押さえつけられる形になり、
目の前の男との距離が近づいた。

「…やっぱりしてねぇんだな。」

『…は？』

「指輪。
あの男と結婚するつもり、とか言ってたけど、やっぱり嘘なんだろ？」


侑斗は掴んだ右手首とは反対のAの手を掴むと、
その1本の指へと視線を注いだ。


“結婚を考えている”


初めて侑斗が店に現れた時、
松田を巻き込むような形で確かにそう口にした。


至近距離に迫られ、
ゾワリとした感覚と、
そして、キスをされながらも逃れられなかったあの日のことを思い出し、
恐怖と悔しさで、Aの肩が小さく震え始めた。


『…嘘じゃないって言ってるでしょ。
…店があるのよ。作業中は外してるだけよ』

「…へぇ？」

『貴方のことなんてもう何とも思ってない。
二度と会いたくない。

…そう言ってるでしょ』

「でも本当は――

…っ！」


ぐいっと、Aに顔を近づけた侑斗は、
少し頼りない乾いた音の後、
目を見開き、反射的に少し後ずさりをした。

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