Rain (3)【名探偵コナン】

指輪 ページ26

それから3日が経った日曜日。
高木と伊達という刑事たちがこの店に来てからも、
松田が現れることはなかった。

「Aさん！見てください、これ…結構うまく出来たんです！」

『あ、この間話してた、トリュフ？』

「はい！バレンタインまではまだ2週間くらいありますけど、
一応練習しておこうと思って…」

『フフッ。美味しそうね』

スマホのディスプレイに映るトリュフの写真を見せてくる由紀に微笑むAは、
キッチン横の壁にかけているシンプルなカレンダーに目を向けた。

(…もう明日から2月。早いものよね)

「あ、一昨日頂いたスコーン、すごく美味しかったです！
クリスマスのときのショコラ味とはまた違って、今度は生地自体が甘めで…、
バレンタインって感じで！」

『ありがとう。もう少し工夫しようと、今色々考えてるんだけどね。
また、由紀さんにも意見貰えたら嬉しいわ』

Aもまた、
バレンタイン用のスコーンの新作のレシピを練っている最中で、
自宅で度々試作品を焼いていた。

キッチン横には、あのスケッチブックが閉じられている。
その中には、由紀の誕生日に渡そうとこっそり画策している、
小さめのホールケーキのレシピとデザインも描かれていた。

先日、高木には、”もう随分前のこと”と口にしたAは、
今更かとも考えていたのだが。
あの事件の時、謂れのないSNSの書き込みにダメージを受けたこの店は、
由紀に色々と救われたのだ。
そして、A自身も。

普段から試作品や商品のスコーンを持って帰ってもらってはいるものの、
あの時だけじゃなく普段のお礼も込めて、という気持ちが強かった。


「それじゃあ、お疲れ様でした！
…あ、そうだ。今度、トリュフ味見してくれませんか？
自分だけだとやっぱり不安で…」

『もちろん。私でよければ。』

よろしくお願いします！と、Aに元気に笑いかけた由紀は、
15時を回った時計に視線を向け、
パタパタと足早に店を出て行った。


(…日曜日だしね。デートでもあるのかしら)

彼氏ができた、と、
気になっていた人に告白をしてOKが貰えて付き合うことになったと、
嬉しそうに話していた由紀を思い出し、
Aは嬉しそうに柔らかく微笑んだ。

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