Marble −茜色の言葉− 【名探偵コナン】

ある雪の日に_4 ページ19

10分後。


Aはまるで当然のように、
見知った車の助手席に乗せられていた。

見知ったと言ったところで、
それは間接的なものが大部分だ。
直接見たというのは、…”彼のこの車”をという意味では、
数日前に1度ちらりと見かけた程度。


「寒くありませんか？」

『いえ。お気遣いなく』


慣れた様子でハンドルを片手で操作し、もう片方の手をエアコンの送風口に当てているのは、
至近距離ともいえる隣の運転席に座る、降谷だ。


あの公安警察のオフィスのデスクに座り、目の下にクマを携え、
軽く睨み付けるような視線を向けてきた男とは、
どうにも似ても似つかない気がして落ち着かないA。


いや、そんなことはどうでも良いのである。


3度は断ったはずだった。


しかし、警察庁の裏口を出た時点で、
最寄駅からの電車は一時運休となってしまった。
渋々とりあえずタクシーを拾って帰ろうとそのまま駅に向かおうとしたのだが、
少し積もり始めた雪に足を取られ転びそうになったところを、
不本意にも彼に身体を支えられたというこの数分間で、
最終的には、半ば強引に彼の車に乗せられる形になった訳である。




まぁ、送って貰えるのは助かるのは嘘では無いのだが、
お願いしますなどと思える間柄ではない。


わざわざ冷静に考えなくとも、
警備企画部警備企画課、…公安警察”ゼロ”の人間だ。
事務官として先日のように対応することはあっても、
それ以上の関わりをもつ必要はどこにもない。


『はぁ…』


赤信号で静かに止まったRX-7。
思わず漏れたAのため息が合図になったかのように、
降谷が口を開いた。



「この間のことだが」

『…』


何故口調が変わるのか。
というか、彼はどういう立場で自分とこうして話しているのか。


もはや解決しようとも思わない謎が頭をよぎり、
Aは不機嫌さと警戒心を露わにして運転席をちらりと見つめた。

ある雪の日に_5→←ある雪の日に_3

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す