Lemon tree ページ4
すっかり涼しくなった2ヶ月後の11月。
非番のAは、萩原の墓を訪れていた。
11月7日。
1年前の今日。
萩原がこの世を去った日だ。
そっと花を供えた後、
墓の前にしゃがみこみ、静かに手を合わせるA。
その足元には、
“Lemon tree”の紙袋があった。
『…あ、これ、私のだから。
美味しいお店教えてくれて、ありがと。
あの時貰ったシュークリーム、…嬉しかった。』
供えものじゃないことに謝罪をしているのか。
何かの張り合いなのか。
よく分からないセリフとともに、
懐かしむようにお礼を述べるA。
『…タバコでも買ってきた方が良かったわね』
ポツリと零すAは、警察学校時代は知らなかったのだ。
萩原が喫煙者だと言うことを。
それもそのはず。
規則により、寮や校舎で吸うことは出来なかったため、
時折こっそり吸っていた程度だったのだから。
そして、
すっと立ち上がり、
墓を去ろうとするAの目の前に入れ替わるように現れたのは、
サングラスをかけた長身の人物。
「…よぉ。久しぶりだな」
『…松田？』
そのうねった黒髪。
無愛想な、低音の声。
纏う雰囲気で”松田”と分かるとはいえ、
サングラスをかけていることで疑問形で問いかけるAに、
松田はすっとサングラスを外した。
松 「あぁ。…悪ぃ」
『…ううん。久しぶり。』
ちゃんと顔を合わせて言葉を交わしたのは、
1年ほど前。
萩原が命を落とす1ヶ月ほど前。
警視庁のエントランスで､降谷のことで何故か松田に詰め寄られた時以来だ。
顔を見たと言う意味では、
同じくちょうど1年前の萩原の公葬のとき。
そして、その後一度だけ、
半年前に警視庁内の廊下で会ったものの、
互いに一言、挨拶のような言葉を交わしただけだった。
松 「こんな時間に来たのか。…非番か？」
『うん。松田も？』
松 「まぁ…な。」
14時という明るい時間に墓を訪れている2人。
11月の冷たい風が頬を撫でた。
空には、少しどんよりとした雲が広がっている。
『…それじゃ』
“気をつけて”
口には出さず、同じ爆発物処理班である松田を見つめると、
そのまま墓の出口へ歩き出そうとするAだが、
松 「…それ。」
『え？』
松田の言葉で足を止めた。
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作者名：white12
| 作成日時：2019年11月17日 12時
