差し出された傘_4 ページ16
『…寮でいいのよね?』
機動隊の独身隊員は皆、警視庁付近で寮生活を送っている。
それは、夜勤ではなくとも、何かが起こった場合すぐに出動できるようにするためだ。
松 「あぁ。捜査中だったのに悪ぃな。」
助手席に座る松田は、
ハンドルを握るAに、少し申し訳なさそうな顔を向けた。
その肩は雨に濡れてシミができている。
そして、それはAも同じだった。
『…別に良いわよ。さっきも言ったけど、たまたま見かけただけだから』
松 「…降谷には言うなよ」
『…は?』
松 「めんどくせぇことはゴメンだからな」
何の言い訳なのか。
察しがいいのか悪いのか。
ため息をつく松田に、
Aは意味が分からないと言わんばかりに、少しだけ口を閉ざした。
『…何の話よ。めんどくさいことって』
松 「…だから。降谷に見られたらめんどくせぇことになるかもしれねぇだろうが」
『良く分からないんだけど…。
いつの話してるのか知らないけど、降谷とはもう1年以上会ってないわよ』
松 「…は?1年以上…?」
3ヶ月前。
駅のプラットフォームで偶然、その姿を見たとはいえ、
会話を交わしていないのは事実だ。
最後に言葉を交わしたのは、昨年の冬、警視庁の道場に呼び出した時。
公安と直接関わることなどないAは、
仕事に関する連絡をとることもなかった。
『…寮ってあれよね?確か。』
松 「はるみ――」
『傘、持って行ってもいいけど。大丈夫?』
すっと寮の前に車を止めると、
Aは特に表情を変えずに、松田の足元の傘と松田の顔を交互に見つめた。
まだ強く降り続ける雨の中、松田を心配するようなセリフだけをこぼして。
松 「あ、いや…良い。助かった。」
そして、松田は何も言えず、
送って貰ったことへのお礼だけを述べると、雨が降りしきる中、足早に寮へと入って行った。
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作者名:white12 | 作成日時:2019年11月17日 12時