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治したい傷 ページ43

『…身体…が、覚えてる…なんて、言われても…、
そんなの…どう、したら…』

言葉を続けるAは、
手首を掴まれ、松田とのわずかな距離を保ったままで、
悔しそうに顔を歪めた。

一度は止まっていた涙が、
瞳を揺らす涙がポトリと落ちた。



小説やらドラマやらで聞いたことのあるセリフだったが、
抵抗できず、力が抜けてしまったのは事実で。

もう、二度と会いたくない相手であることは確か。
それでもやはり、そういうことなのかもしれないと、
だとしても、どうすれば良いのだと、
悔しさから、Aの目からまた、じわりと涙が溢れる。


「…身体が覚えてる、ってなぁ…。
よく分からねぇが…、抵抗できなかったって、まぁ…、そういうコト、か」

『…あ…すみません..変な…こと、言って…』

会話をしているからか。
どこか頭は冷静なようで。
人前で、大声で言えるようなセリフではない言葉を口にしてしまい、
Aは謝罪の言葉を告げた。


「まぁ、アンタがあの侑斗って元カレをまだ好きなのかどうかは知らねぇけどな、
…その、なんだ。身体が覚えてる、っつーのは、他人にはどうにも出来ねぇだろ。」

『…今更、
まだあの人のことが好きなんて…、あり得ません』

「へぇ。…そうかよ」

『…そう、です…』


しばらくして、
悔しさを言葉にしたことで落ち着いたのか、
Aは床を見つめたまま静かに呼吸を繰り返していた。


『あ、…あの、すみませんでし――

…!』


ふと顔を上げ、正面に立っていた松田の顔を見上げて、
面倒なことに巻き込んでしまった事に謝罪をしようとしたAは、
急に感じた温度に、その感覚に、
驚きのあまり言葉を飲み込んだ。


固まったまま見つめる先には、
ゆっくりと離れていく松田の整った顔があった。
伏せ目がちに、小さく舌を出したまま。


とっさに、唇の端に手を当てるAは、
パチパチと瞬きを繰り返している。

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作者名:white12 | 作成日時:2019年11月14日 21時

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