Rain (2)【名探偵コナン】 (ページ36)

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禁煙です。ページ36

ドアの鈴の音が鳴らない。
つまり、松田はまだ店の中にいるのだ。

足音もせず、近づいてくる様子もない。
入口に立ったままなのだろうか。

松田に背を向けた状態で俯いていたAは、
帰ってと言ったにも関わらず、その場に立っているだろう彼のことが気になり始めた。
同じ空間にいるのだ。
それに、以前、この場所で侑斗に迫られているところを見られてしまっているのだ。
気まずいのも当然で。

唇を擦り続けていた手は、
いつの間にか止まっていた。

そして、ふと───

わずかにタバコの匂いが漂ってきたことで、
我に帰ったように顔を上げた。

『…え…』

目尻を赤くしたまま入口の方に視線を向けると、
入口の壁に背をもたれ掛けて、
紫煙を吐きだす松田の姿があった。

その視線は、
Aではなく、向かいの壁に向けられている。
誰かと待ち合わせでもしているように、宙を仰ぐような格好でタバコをふかしていた。

『…あ…、ちょ…っ…と』

「ん？」

先ほどまで、複雑な表情を浮かべていた松田だが、
何やら平然な顔をして、Aの方へ顔を向けた。

『…この店…禁煙…です。』

「…は？」

『タバコ、…吸うなら外で吸ってください…』

松田に背を向けていたAは、
ツカツカとカウンター内から出ると、入口に立つ彼の方へと近づいた。
そして、タバコをくわえる彼を両手で押す格好で、
店の外へ追い出そうとした。

目尻は赤いものの、慌てた様子で、
目の前の男が吸う”タバコ”しか見えていないようだ。

『…お願いします…！』

「…分かった分かった。悪かった。」

観念したように片手をヒラヒラさせた松田は、
コートから携帯灰皿を取り出し、
吸い始めたばかりだろうタバコを捨ててしまった。

『あ…』

「悪ぃな。知らなかったんだよ。
…寒ぃけど、ドア開けとけば匂いはつかねぇだろ」

『…』

換気のためか、松田が入口のドアを開けると冷たい風が入り込み、
Aはふるっと肩を震わせた。