検索窓
今日:20 hit、昨日:29 hit、合計:382,756 hit

無言電話 ページ32

『…っ…』

侑斗が帰った後、店内には流れ続ける水の音が響いていた。

キッチンには、水で唇をゴシゴシと洗うAの姿。
溢れることはない、必死で耐えている涙が、その目を揺らしていた。

しばらくそうした後。
ふと、唇をこすっている手を止めたAは、
みるみる表情を歪め、悔しげに大粒の涙を零した。


それらを手でぐいっと拭うと、また、唇を擦り始めたのだった。


目を赤くした状態では、
明日の仕事に差し支えてしまう。

こんな状況でもそんな考えが頭に浮かぶのは、職業病だろうか。


そして、水道を止めると、Aは悔しげに眉をひそめたまま、
長いため息を吐いた。


(…また来たら…、警察に相談した方が…)

いつぞや、松田に話した言葉どおり、
Aが大事にしているこのCafé Rainに、
そうしたネガティブな出来事をあまり持ち込みたくはない。

といっても、また侑斗が来たら次は何をされるか分からない。
自信家の性格からか、どうやら、勘違いをしているようなのだから。
…そんなことを言っている場合ではないかもしれない。


(…なんでこんなことになっちゃったんだろ…)


悔しそうに、また、涙腺が緩むのを感じたAが、
きゅっと奥歯を噛み締めた時――


チリンチリン...


入口のドアの鈴が少し乱暴に鳴った。
侑斗が去った後のAは、鍵を閉めるなど、そんな思考は持ち合わせていなかった。

無言電話_2→←クリスマス_5



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (164 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
259人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:white12 | 作成日時:2019年11月14日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。