無言電話 ページ32
『…っ…』
侑斗が帰った後、店内には流れ続ける水の音が響いていた。
キッチンには、水で唇をゴシゴシと洗うAの姿。
溢れることはない、必死で耐えている涙が、その目を揺らしていた。
しばらくそうした後。
ふと、唇をこすっている手を止めたAは、
みるみる表情を歪め、悔しげに大粒の涙を零した。
それらを手でぐいっと拭うと、また、唇を擦り始めたのだった。
目を赤くした状態では、
明日の仕事に差し支えてしまう。
こんな状況でもそんな考えが頭に浮かぶのは、職業病だろうか。
そして、水道を止めると、Aは悔しげに眉をひそめたまま、
長いため息を吐いた。
(…また来たら…、警察に相談した方が…)
いつぞや、松田に話した言葉どおり、
Aが大事にしているこのCafé Rainに、
そうしたネガティブな出来事をあまり持ち込みたくはない。
といっても、また侑斗が来たら次は何をされるか分からない。
自信家の性格からか、どうやら、勘違いをしているようなのだから。
…そんなことを言っている場合ではないかもしれない。
(…なんでこんなことになっちゃったんだろ…)
悔しそうに、また、涙腺が緩むのを感じたAが、
きゅっと奥歯を噛み締めた時――
チリンチリン...
入口のドアの鈴が少し乱暴に鳴った。
侑斗が去った後のAは、鍵を閉めるなど、そんな思考は持ち合わせていなかった。
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作者名:white12 | 作成日時:2019年11月14日 21時