涙と怒りと ページ6
「A〜。ごめん、この本借りてたの忘れて――
って、どうしたの…?」
30分後の女子寮。
片付けの最中に見つけた本を返そうと、Aの部屋を訪れた塔子は、
焦ったように小さく目を見開いた。
ちらりと振り向いたAが、
怒った様な顔をしながら、わずかに瞳を揺らしていたからだ。
塔 「え、A…何かあったの?」
――――
塔 「手加減…ねぇ。
降谷くん、そんなことする人とは思えないけど?
女だからって、Aに手を抜くなんてこと、しないと思うけどなぁ」
『…知らないわよ。
でも、手を抜かれてたのは事実で。
…でも、もう良いの』
塔 「…もう良いのに、そうやって、悔しそうに泣きそうになってるの?」
『…』
道場でのことだけを、
降谷に手加減されたということを、
ポツリポツリと話したA。
悔しそうに、ほんのりと瞳を赤くしたままで。
ただ、悔しかったから、こうして涙腺が緩んだ訳ではない。
でも、ベンチでのことは、うまく話せない。
2週間前の降谷とのことだって、そうだ。
それが、今のAのぐちゃぐちゃした思考の原因であるとしても、
A自身、まだ、良く分からないだから。
昨夜、Aが襲われたということを心配していた塔子は、
そのことでまた何かあったのではないかと、
慌てた様子で部屋に入ってきた訳だが、
Aの話に、少しだけ安心した顔を浮かべていた。
塔 「A、前にも降谷くんと組んでたわよね。
私は咲良と遠目に見てただけだけど…、結構良い勝負してたように見えたし。
Aは本気で勝負したかった訳よね?」
それは、数ヶ月前の6月のこと。
訓練でAの実力を見て、組手を教えてほしいと、
塔子がAと、そして咲良と、道場で組んでいたときの話だ。
『…それはそうだけど。
もう、仕方ないから。 もう…、良いから。』
塔 「…もう良いって…。
そんな顔で言われても、ね…
ちゃんと話してみれば良いじゃない。降谷くんと。」
『…』
景光と同じ様なことを言われ、
先ほどの、景光にされたことを思い出し、
同時にあの日の降谷のことを思い出し、複雑な表情で眉をひそめるA。
塔 「どうせ、話もせずに道場出てきたんでしょ?」
『…私だから、って言われただけ』
塔 「…え?」
『何で手加減したの?って聞いたら、
そう言われた』
Aの言葉に、塔子は怪訝な顔をした。
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white12(プロフ) - ra -ra さん» コメントありがとうございます。SNOW DROPは,拙いながらも私自身けっこうお気に入りでして,警察学校組好きが溢れた作品でした。お楽しみ頂けていたなら本当に嬉しく思います。 (2021年5月26日 21時) (レス) id: 654daa9564 (このIDを非表示/違反報告)
ra -ra - やばい。何度読んでも面白い! (2021年5月18日 16時) (レス) id: 4001d860f3 (このIDを非表示/違反報告)
white12(プロフ) - 燎彩さん» とても嬉しいコメントありがとうございます!最高と言っていただけて本当に嬉しいです。長くはなりますが、続編 (II)も更新中ですので、もし宜しければお楽しみ頂けますと幸いです。 (2020年1月23日 13時) (レス) id: b6a71bc5a9 (このIDを非表示/違反報告)
燎彩(プロフ) - 完結お疲れ様でした!語彙力皆無なので一言だけ…最高です!! (2020年1月22日 11時) (レス) id: c873624ead (このIDを非表示/違反報告)
white12(プロフ) - さちさん» 本作をお読み頂きありがとうございました。面白かったと感じていただけてとても嬉しいです。もしよければ続編もお楽しみ頂ければ幸いです。 (2019年11月18日 23時) (レス) id: b6a71bc5a9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:white12 | 作成日時:2019年9月1日 9時