逃れられない想いとともに。(3)【松田陣平】 (ページ9)

今日:38 hit、昨日:4 hit、合計:63,886 hit

写真の中の痕跡_3 ページ9

それから数日後、葵は再び喫茶店ポアロを訪れていた。
例の製薬会社からの帰りである。

相手側の弁護士と話をした結果、
被害者からの訴えは、パワハラをしたという当人だけでなく、会社側への訴訟になりそうで、
当時の会社側の対応など、改めて確認するために佐伯と話をしに来たというわけだ。

(なんとか示談に出来るといいけど…)

被害に遭ったという被害者自身とはまだ顔を合わせることが出来ていないが、
どうやら精神的に大きなダメージを受けたらしく、
数週間休んだ末、会社は先日退職したそうだ。

訴えられた当人とも話をしながら、
そんなつもりはなかった、と十分反省している様子を感じていた。
例の佐伯は、
示談金が発生しても良いので、出来るだけ穏便に済ませたいと、
やはりチラチラと葵を見ながら、お願いします…とその手を握ってくる始末。

「お待たせしました、ブレンドコーヒーです。」

今日は梓の姿が見えない。
コーヒーを運んできたのはイケメンの店員だった。

「難しい顔、されていますね。少し顔色も悪いですし…」

安室、だったか。
心配そうな顔で話しかけてくるその男に、
大丈夫ですよ、と愛想笑いをして、
葵は思考を切り替えた。

午後3時。
客は葵の他には1人で、店内は静かだ。
キッチンに戻った安室がコーヒーを入れる音だけが、
コポコポ、と心地よく響いている。

壁際の椅子に置いた自身のカバンに目を向け、
別件に思考を巡らす。

取り出したのは、やはり白い封筒だった。
昨晩、またもポストに入っていたものである。