逃れられない想いとともに。(3)【松田陣平】 (ページ8)

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写真の中の痕跡_2 ページ8

「あ、葵さん、おかえりなさい！」

事務所に戻ると、
笑顔で出迎えてくれる安田にホッと柔らかい表情を浮かべる葵。

デスクに戻りカバンを探ると、
先ほどの案件に関連する書類と、1枚の封筒が見え、
再び厳しい顔に戻る。

今朝、またも差出人のない真っ白い封筒がポストに入っていた。
中には、今度は2枚の写真。
どちらも、葵のみが映った写真だ。

最初のものと同様、上半身がアップになっており、
周囲の景色は、どこかのビルのガラスと街灯か何かの柱が映っているだけで、はっきりはしなかった。

写真には日付もないため、いつ撮られたのかも分からない。

これは、やはり、
ストーカー、というやつだろうか。
真っ白い封筒。
その中の写真をもう一度確認する。

自身が映った写真を見つめながら、
気味の悪さとわずかな苛立ちを感じる。

1枚目の写真が送られてきて以来、
夜道など、普段以上に警戒しているつもりだが、
特につけられている気配は感じていなかった。

(この服…。)

5月に入って気温もずいぶんと暖かくなったため、
葵は先週から夏物のスーツやジャケットを着ていた。

写真に写る葵は、夏物の白いジャケットを羽織っている。

(先週、あるいは今週、どこかで撮られたってこと…)

顎に軽く手を当て、
葵は思いついたように、手帳に何かを記し始めた。

「あ、結城さん！製薬会社の案件、大丈夫そうですか？
一応、過去の訴訟問題について調べてみましたが…」

葵のデスクに神山が書類を手にやってくる。
製薬会社の案件が訴訟になりそうだ、ということで、
神山に過去の事例や社内の状況について調べてもらっていたのだ。

「メーカーとのトラブルが過去に一度あったようですが、
ハラスメントなど、社内の問題での訴訟は、特になさそうですね…
SNSなどでも調べてみましたが、特にブラックという噂もないようです」

『そう…調べてくれてありがとう。
とりあえず相手側とも話をしてみないと、という状況だから…
また何かお願いするかも。』

はい！と気持ちいい返事を残す神山に、葵は小さく笑った。