逃れられない想いとともに。(3)【松田陣平】 (ページ6)

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白石の葛藤_2 ページ6

しかし、秋野は、
被告の過失の割合は多く見積もっても50%程度、だと主張し、示談金や和解を受け入れようとしなかった原告側をじわりと責め立てるような態度だったそうだ。

刑事事件ではないため、情状酌量、ということではないが、
本来は、被告側には90%とも言える過失があったにも関わらず、
このために作成されたような医師からの診断書など、怪しげといっても良い証拠、ありとあらゆる事情を並べ立て、
そう主張したのである。

被告側の精神状態は通常ではなかった、
原告の生活音によりノイローゼになっていた、
それを示す証拠、その他、被告の日記など。

当然、白石はその信憑性について異議を申し立てた。
裁判官も当初はその異議を受け入れていたが、結果的には、
原告の訴えは認められたものの、
被告側の過失はそこまでのものではなく、
原告側にも過失があったと判断される後味の悪いものだった。

「ただ、怪しいと言っても、
それを確実に示せる証拠もなくて。
診断書など、証拠自体は本物でしたし。
原告には、辛い思いをさせてしまいました。力、不足ですね」

『そんなこと…』

苦々しい顔をさらに歪める白石に、
葵はそう小さく漏らし、デスクに視線を落とす。

白石からはその表情は読み取れなかったが、
葵は、下唇を噛み締めていた。

「時々思います。弁護士って、なんなんでしょうね」

その言葉に葵が顔を上げると、
苦々しい表情に笑みを交えながら、席を立つ白石。

あくせく作業している神山のデスクに向かう白石の背中を見つめて、
葵は、ため息のような、長い息をゆっくりと吐き出した。