見たくなかった光景_3 ページ48
燃え盛る倉庫を見つめ、
つぅ…と、葵の頬に雫が落ちる。
抱きかかえたままの女の子。
葵に、葵の首にしがみつくようして震える、秋野の娘の、涙だ。
葵は、ただ、倉庫を見つめたまま言葉を発することが、
出来なかった。
その目から涙が落ちることはなく、
先ほど対峙していた永澤のように、
そこには、何も、映していないようだった。
「え？見当たらない？」
「…そ、それが、先ほどまでこの周囲にいたと思うのですが…」
ふと、警官の声が近くに聞こえる。
しかし、その会話の内容は、葵の頭には入ってこない。
ただ、その”音”に反応してゆっくり振り向くと、
”永澤”の腕を掴み、パトカーの方へ連行しながら、
焦った様子の佐藤の姿。
その周囲には、何台ものパトカーが見える。
葵は、無言のまま、
その顔に表情を浮かべないまま、
永澤の方へ、足早へ向かった。
無表情のまま、つかつか、と足早に歩を進め、
そして、
永澤の目の前で、
ぴたり、と足を止める。
永澤の手には、手錠がかけられている。
『どう、なっても良かったんですか』
「…は？」
永澤は、脱力した様子のまま、弱々しく答える。
「…ゆ、結城さん？
その子は…」
佐藤は、この場に葵がいることに驚いた様子だ。
永澤を連行している、
ということは倉庫内での様子は伝わっているはずでは、
と、普段の葵なら考えるところだが、当然、そんな思考は回らない。
倉庫の爆破により、現場は混乱している。
情報も、錯綜しているのだろう。
『どう、なっても良かったんですか
この子が、
誰が、
どうなっても、良い、って
そう考えていたんですか……！』
女の子を抱く手に力を込めながら、
淡々と、しかし、徐々に語気が強まる。
「ハっ…」
永澤は、鼻で笑うように、諦めたような表情を向ける。
『…』
一瞬苦しそうに小さく顔を歪め、
葵はそれ以上言葉を紡ぐことはなかった。
事情が分かっていない佐藤は、
犯人である永澤に近づく葵に、
離れるように促し、そのまま永澤をパトカーに押し込むと、
スマホを片手に焦ったようにコンテナの方へと走っていった。
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作者名：white12
| 作成日時：2019年7月5日 13時
