見たくなかった光景 ページ46
「…あと何分だ!」
痛みからか、苦い表情を浮かべながら、
松田が声を上げる。
「2:18…
もうすぐ2分を切ります!」
「な、なんだと…!」
焦る風見と、再び舌打ちをする松田。
「…解体は間に合いません!
急いでここから離れましょう!」
こちらに走って戻ってくる警官は、
うずくまる松田に肩を貸そうとする。
「…いや、あっちの男を先に避難させろ」
拘束されていた男、
田村も、足を怪我して立ち上がることが難しい状況だ。
そっちを優先するように、という松田の言葉に、
警官は一旦反論するが、
「いいから…!とにかく急げ!」
と一蹴され、田村を肩に担ぎながら、階下へ向かった。
風見は、
諦めたように動く様子のない永澤を抱え、
「すぐに、戻ります!」と、同じく階下へと向かった。
残された葵は、
目の前で未だ震える女の子と松田を交互に見つめる。
「…アンタは早くその女の子を助けてやれ」
緊迫した状況ながらも、
ほんの少し柔らかくなった松田の言葉に、
葵は、
『で、でも…』 と、先ほどの警官のように反論する。
自分のせいだ。
その考えが浮かび、葵の思考は停止する。
女の子を抱えながら、松田の方へと向かい、
おい…!と、怒鳴るような松田の声を無視して、
何とか彼の腕を肩に乗せようと、する。
が、女の子を抱えたまま、
いや、そうでなくても、葵に松田を支えることは、不可能だ。
「…馬鹿か!もう時間がねぇ!
その子を連れて早く逃げろ!
…大丈夫だ、怪我は大したことねぇ。
俺もすぐに追いかける」
未だ立ち上がれない様子にも関わらず、
怒鳴りながら葵を叱咤した後、
諭すように、ニヤリ、と口角を上げる松田。
いつぞやのような表情を浮かべる松田の言葉に、
葵は決意したように、
瞬時に女の子を抱きかかえ直し、
階下へ力の限り走った。
倉庫に入ってきたときの冷静な思考回路は、
もう、どこにもなかった。
女の子は、黙り込んだまま震えを止めない。
『大丈夫、大丈夫…』
女の子を強く抱きしめながら、
女の子をなだめているのか、
自身をなだめているのか、
どちらだか分からない言葉を呟く葵は、
全力で走り、倉庫から飛び出した。
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作者名:white12 | 作成日時:2019年7月5日 13時