頭の整理_2 ページ4
少し思案した後、
スウェットに着替えて棚の引き出しから”ある物”を取り出し、ポケットに入れる。
そして、棚の上のタバコとライターを掴むと葵はベランダへ向かった。
––––
紫煙が登る。
目の前のアパートが嫌でも目に入る。
運んでもらった時の記憶、
朝部屋を出ると、松田の部屋は2Fの角部屋であることを知った。
チラ、と、その部屋のベランダに目を向ける。
部屋の明かりがぼんやり見えるだけで、誰もいない。
まぁ、本人がいたら、それはそれで困るのだろうが。
松田が数分前までそこにいたことを、当然葵は知らない。
口を付けることのないタバコに、
灰だけがジリジリと膨らんでいく。
スウェットからそっと取り出したのは、
真人から渡された、あのイヤリングだった。
涙は、出ない。
流しきった、訳ではないだろう。
今は、涙が出ないのだ。
法律事務所が狙われた、先日の爆弾事件。
葵の中で、消すことのできない何かが、込み上げてくるのを感じていた。
“それ”を、葵は知っている。そう、思っていた。
犯人への憎しみ、怒り。
簡単に説明できるものなら、きっと楽なのだろう。
複雑すぎる感情を、今だに整理できていない自身に自嘲する。
別の引き出しに閉まっている物には、もう何年も触れていない。
隼人、若宮家のおじさんおばさん、真人。
香織、茅野をはじめとする事務所の人間、
なぜか松田、の顔が浮かんだ。
父親の顔は、
浮かべることが、出来ない。
(…。)
右手からこぼれ落ちそうになる灰を、
灰皿で受け止める。
(なんで、あんなこと言っちゃたんだろ…)
観覧車での会話を思い出す。
観覧車、から、
数年前の連続爆弾事件のことを思い出し、
そして、米花中央公園が目に入って。
嫌でも、父親のことを、あの事件を思い出した。
犯人を殺したいほど憎んだことがあるか、
なんて、知り合い程度の相手に聞くべきことじゃないだろう。
あの後松田は何も言ってこなかったが、
危ないやつだと、警戒されただろうか。
松田には、事務所の爆弾事件でも、
卑劣な犯人が許せない、と、話をしてしまった。
(なんで、話しちゃったんだろ…)
ふと、イヤリングに視線を移し、
思考をあの日に戻す。
(何も、進んでいない、きっと。
隼人兄ぃにも、若宮家にも、
…何も向き合えていない。)
イヤリングをポケットにしまいながら、
(受け止められたわけ、じゃない…けど。でも。)
タバコの紫煙が消えた後も、
葵の思考は、整理出来なかった。
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作者名:white12 | 作成日時:2019年7月5日 13時