逃れられない想いとともに。(3)【松田陣平】 (ページ2)

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ブレンドコーヒーとハムサンド_2 ページ2

視線を戻し、先ほどの実況見分について、
確認を終えた事項を改めて手帳にメモし始める葵。
撮影した現場写真のデータを確認していると、

「お待たせしました！ハムサンド、です」

と、梓よりも低い声が頭上から降ってくる。

先ほどキッチンの中にいた、
金髪の、いわゆるイケメン店員がそこにいた。
手帳やカメラをさっとカバンにしまう葵。

カタン、とハムサンドをテーブルに置くと、

「また来てくださってありがとうございます。

…弁護士さん、ですか？」

と聞いてくるその男に、葵は不思議な表情を浮かべた。

葵は、裁判やクライアントとの打ち合わせ、
被疑者との面会など、必須な場面以外では弁護士バッヂをつけていない。

『えっ…どうして分かるんですか？』
「あ、すみません。先日いらした際、ご友人との会話がちょっと聞こえてきたもので…」

申し訳なさそうに顔を緩める男は、ずいぶんと人懐こい雰囲気を醸し出していて。

『あ…そうだったんですね』

「それだけじゃないかもしれませんよ？」

苦笑いをする葵だったが、
男の後ろから聞こえる梓の声にきょとんとした。

『え？』

「だって、安室さん、毛利探偵のお弟子さんなんです！
雰囲気とか、仕草とか、持ち物とか？そういうところから推測されたんじゃないですか？」

「ちょ、ちょっと梓さん…
本当にただ聞こえてしまっただけですよ。」

なぜか得意げの梓に、
安室、と呼ばれたその男は困った顔をした。

「もし、お困りのことがあれば…
と思いますが、弁護士さんなら僕は力不足かもしれませんね」

と苦笑いする安室に、

いえ、ありがとうございます。
と葵は社交辞令的返事を返す。

「少し顔色が悪いようですが、お仕事無理しないでくださいね」
にこりと笑いながら、そんな言葉を残して安室はキッチンへ戻っていった。

整った顔立ちに、相手を気遣うセリフ。

香織がいたら、喜びそうだな、
葵はぼんやり考えていた。

忙しい時間帯だ。
余分な会話をしている暇はないだろうに、
そうした会話をしながらも、キッチンなりテーブルなりをスムーズに行き来しながら作業する2人を見て、

接客業って凄い。

と葵は改めて思った。

(毛利探偵のお弟子さん…
探偵なのか。

でも、喫茶店の店員？アルバイト…かな)

再びキッチンに戻って作業をしている安室を見ながら、ハムサンドにかじりつく。
その絶妙な味に、先日同様に舌鼓をうつ葵だった。