├ 続：雲間のモノクローム ページ1
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『バイクを停めて―――紅葉』
『え？あ、ああ……』
突然の月華の申し出に、紅葉は適当な路側帯にバイクを停車させ、ハザードランプを燈した。
外灯は疎らで、深夜の道路は闇に包まれている。
アイドリングするバイクのエンジン音と、ヘッドライトの灯が
辺りの闇を静かに照らしていた。
『どうした？』と、
包み込むように圧がかかる。
『月華？』
2つのヘルメットが、カツンと音を立てて接触する。
ヘルメットの口元に設置されたマイクが彼の些細な声を拾い、
耳元に設置されたスピーカーから少し震えた声を響かせた。
『軽率だった―――ごめん。
でも、これだけは知っていて欲しい。俺は―――もう2度と折れたりしないし、キミにあんな顔をさせたりもしない。木槌とは違う方法で、俺を選んでくれた紅葉を大切にするから」
後から、紅葉を抱きしめる月華の腕が、強くなる。
『全く、ナイーブな奴だな。君が思う程うちは、英子の事を引きずってはいないぞ？』
過ぎた過去にとらわれ過ぎても仕方がない。
それよりも今は―――目の前にいる大切な人達を守る為
今できる事を精一杯するだけだ。
勿論、それらは教訓として しっかり胸に刻んである。
2度と―――
2度と繰り返すまいと。
彼の腕からすり抜けて、グローブを嵌めた自らの手で、慰めるように彼のヘルメットを撫でた。
ふと、零れた月華の微笑が、インカム越しに伝わる。
離れた腕は紅葉のヘルメットを徐に外すと、自らのヘルメットも外して
透けるような白銀色の髪を月明りに晒した。
金色の優しい垂れ目が 目の前で閉ざされると
紅葉の身体は 金縛りにでもあったかのように硬直する。
「ごめんなさい。家まで“待て”が、出来ませんでした」
硬直が解け、反動で脱力した身体は
先程よりも大きな鼓動を立てる。
先程の不整脈は、月華の所為ではない。
あえて理由を探すなら、自らの心の弱さの所為だ。
だけど
今のこの、規則的に高鳴る胸の鼓動は
絶対 全部 君の所為だ―――
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