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―――もどかしい。こんな時、気の利いた言葉の一つも思いつかないなんて……。
自らの幼稚さに苛立たしさを感じつつ、手に握った珈琲を喉に流し込む。
そんな一希に、理玖は自嘲を浮かべた。
「さっきの言葉、嘘」
「あ？」
「酷いのは、一希じゃない」
「―――……」
「一希は、はっきりバイクが好きだって伝えただろ。
俺は―――二年も付き合ったし勿体ないなって気持ちで、別れられずにいるだけ。
酷いのは、好きでもないのに惰性で付き合い続けている、俺の方」
―――サンクコスト……
彼女の事が好きだったという感情や、一緒に居た時間は取り返すことが出来ない。
だから感じてしまう―――嘘や無駄にはしたくなくて、固執してしまう。
判断を鈍らせてしまう……まるで呪縛のように。
「明日の朝、彼女んとこ行って２・３発殴られて振られてこい」
「はぁ？どうして……」
突然の暴言に、呆けた声を上げ睥睨を向ける理玖。
一希はにんまりと笑ってみせた。
「っで。明後日の日曜日、参拝しに行かないか？恋木神社に」
「一希……」
―――理玖の中では、もう“答え”が見つかっているんだろう？
呪縛から、逃げ出せないなら
手を貸してやる。
迷ったなら、話を聴いてやる
朝までずっと、一緒に考えるからさ―――
「ありがと、一希」
理玖の決意と同時に、大人達が一斉に立ち上がる。
こちらも盛り上がっていた話に、ひと段落が付いたようだ。
「今日は海岸沿いでも走るか―――」
大人達の提案に、一希達も習ってブリーフィングを済ませ、
フルフェイスヘルメットに付けたインカムをチーム間で、コネクトする。
恋路湾の花結海岸―――
デートでも何度か訪れたあそこなら、気持ちの整理も出来るだろう。
理玖は、握っていたスマートフォンに手早くメッセージを打ち込み、彼女と明日のアポイントメントを取り付ける。
話し合いは、スムーズにはいかないかもしれないが、それも自分で選んだ道だから後悔はない。
話し合いが終わったら、恋木神社にお参りに行こう―――
新しい春の
準備の為に 。
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