Selection 11：サンクコストの呪縛 ページ38
・
20：00を回り、あたりがすっかり暗くなった頃
二台のバイクが隣町にあるカフェの駐輪場に並んで停車した。
既に先客が大勢いるようで、駐輪場には排気量やタイプの違うバイクが所狭しと並んでいる。
ガラス窓の中は大層盛り上がっている様子。
一希はカフェの入り口を開け周囲を見渡していると、馴染みの大人達が「待っていたよ」と手を上げた。
待ち合わせた彼等は バイクレースをしている友人のチームメイトで、バイクイベントのバイト先で何度か顔を合わせるうちに、こうして一緒に走る仲となった大人達である。
人の縁は、大切にしなければいけない―――
彼等の伝手があってこそ、一希はアマチュアでありながらも
バイクイベントのエクストリームパフォーマンスに声を掛けてもらえるのだから。
招かれるままに彼等の元へと足を進めるのは一希と、
一希のクラスメイトでもあり親友でもある
理玖とは一希が星影町に引っ越してきたころからの親友で、共にバイク免許を取った事でこうして一緒にツーリングに出かける事も多かった。
二人はカフェの席に付きながら、いつもの小言を洩らす。
「外まで笑い声聞こえていましたよ？
「そりゃ、騒がしくもなるわ。俺ら
「「花金？」」
耳馴染みのない言葉に、一希と理玖は顔を見合わせて眉を顰めた。
大人達は大袈裟に肩をすくめ、「最近の若い奴等に言っても通じないか」とため息を零す。
一希は片手のスマートフォンをタップし、彼等の言う“花金”とやらを検索してみたが―――
意味：サラリーマンの、一週間の勤務を終えて解放感にあふれた金曜日の事。
ははっ
(いつの時代の言葉だよ。学生が知るはずないだろう……)
どうやら大人達は、花金とやらのほとぼりが冷めるまで、走り始める気はなさそうだ。
いつものアイス珈琲をオーダーし、一希と理玖は再び盛り上がる大人達の会話を流し聴いていた。
同じバイクの趣味で繋がった縁だが、流石に年齢に差があると話題が異なり話についていけない。
勿論、大人達の会話は 社会経験に乏しい一希にとって有益な情報も多く、
特にバイク関連の会社に勤める彼らの伝手やコネクションで、
整備費用や備品の購入が安く抑えられているという直接的なメリットも大きい。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
