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そもそも、相手の様子から気持ちを理解して推測する『デコーディング』能力は男女に大きな違いがある。
所謂、“女の勘は鋭い”と言われるもので、男の浮気はすぐバレるのに、女の浮気が彼氏や夫に気付かれにくいのはその為だ。
母の事を溺愛している父だが、母の些細な変化にまで敏感に対応できている訳ではない。
寧ろ、職場での患児の微妙な変化にこそ、機敏に反応しているだろう。
それは、無関心とはまた少し違う―――
出来る事ならこの夫婦の惚気問答に加わりたくはないが、
この日は父の務める花守病院が小児輪番の担当日の為、月に１度の休日出勤(日直)がある。
このままだと母はむくれ、そのご機嫌取りに巻き込まれるのは、
午前中の予定ががら空きな一希であろう。
「サファイアブルーのイアリングとネックレス―――この前の結婚記念日に父さんに貰ったモンだろ？マーメードスカートに似合って、良いんじゃない？」
押し問答……もとい、イチャラブコメディにそろそろ嫌気が差した一希が横から口を挟むと、
母は嬉しそうにイヤリングに両手を当てた。
「流石いっくん！ふふっ、気付いちゃった？！」
「―――……(気付かないとむくれるだろ、貴女は)」
「でもダメねぇ、いっくん。そんなんじゃ女の子はときめかないわよ？」
「は？」
呆けた声を洩らした一希に変わり、
父はダインイングチェアーを引き、スマートに母をテーブルへとエスコートする。
「身に付けてくれて嬉しいよ。サファイアブルーは佐代ちゃんに、とてもよく似合っているね」
「ふふっ、ありがとう弘和さん♡」
どうやら、”貴女に似合う”と伝えるのが、母にとっての正解だったらしい。
(あ―もう。めんどくせぇ)
「俺、部屋に戻っているから」
―――食事終わったら呼んで、片付ける。
背筋が痒くなるような夫婦のやり取りに、もはや視線のやり場を見つけられない。
内容は違えど、コレを毎日聴かされる息子の身にもなって欲しい―――……。
４つ年上の兄は家の近くにある明星大学に通っているにも拘らず、高校卒業と同時に一人暮らしを始めた。
非常に利口な判断だと関心を寄せる反面、今となっては一人だけ逃げた“裏切り者”だと憎らしくも思う。
一希も、高校を卒業したらこの家を出ようと、心に誓ってい程に―――。
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